抗糖尿病薬メトホルミンの新作用(第2報)!ー気道病変/気腫病変混合型COPDの病態進行を抑制するー

【ポイント】

  • 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、世界の死亡原因第3位の難治性の呼吸器疾患であり、病型分類(気道病変優位型、気腫病変優位型、混合型)に基づいた根治療法の開発が求められている。
  • 本研究では、安くて、古くから安全に使用されてきた抗糖尿病薬メトホルミンが、気道病変/気腫病変混合型COPDのモデルマウスの肺の病態の進行を抑制することを発見した。
  • モデルマウス?モデル気道上皮細胞の詳細な解析の結果、メトホルミンは、AMPK活性化を介して、気道上皮細胞の上皮型Naチャネル (ENaC) の活性を抑制するとともに、好中球の浸潤やマクロファージ機能を抑制することで、治療効果を発揮することを見出した。
  • メトホルミンは、糖尿病の治療薬として頻用されているが、最近、本学は、非糖尿病型の慢性腎臓病のモデルマウス(アルポート症候群)に対しても効果を発揮することを明らかにしてきており、メトホルミンが、多くの難治性疾患に対して、安価で、有望な薬として期待されるものであることが示された。

【概要説明】
 慢性閉塞性肺疾患(COPD)は、慢性の咳、痰(たん)、階段の上下りの疲れなど日常生活の中での呼吸困難(息切れ等)を特徴とする疾患です。日本人の40歳以上のCOPD患者数は530万人 (推定) にものぼり、また、全世界におけるCOPDによる死者は、現在までに300万人を超えています (世界の死因順位第3位)。我が国においては、COPDの病型として、肺気腫症状が優位となる気腫優位型COPDの患者が多く認められますが、近年、欧米や肥満を伴うCOPD患者に多い、気道病変優位型、および、気道病変/気腫病変混合型COPDの増加が問題となっています。

 今回、大学院生命科学附属グローバル天然物科学研究センターの首藤剛准教授、および、大学院薬学教育部博士課程4年の中嶋竜之介氏らは、抗糖尿病薬メトホルミンが、気道病変/気腫病変混合型COPDの病態を模擬するモデルマウス(βENaC-Tgマウス)において、気道上皮細胞のAMPK1の活性化を介して、COPD増悪因子である上皮型ナトリウムチャネル(ENaC)の活性を抑制し、肺気腫と呼吸機能 (FEV0.1/FVC) を改善させることを明らかにしました。また、 メトホルミンは、肺組織におけるプロテアーゼ (MMP9, MMP12) の発現や免疫細胞の遊走に関与する複数のサイトカインを抑制することで、COPD病態の増悪に関わる好中球の浸潤やマクロファージ機能を抑制することを見出しました。

 近年、COPDは、単独での肺疾患のみならず、合併症の有無により病態が増悪することが問題となっています。COPD合併症として特に問題となるのは、糖尿病、肥満、肺がんなどの疾患などであり、一方、メトホルミンは、これらの疾患に対しての直接的な抑制作用も期待されています。これらの背景から、多くの人々に対して使用実績のある安価な治療薬メトホルミンは、現在、世界中で問題となっている気道病変/気腫病変混合型COPD患者の包括的な治療に役立つ可能性があります。

 本研究の成果は、薬理学の分野で定評のある国際学術誌「Journal of Pharmacological Sciences」に令和4年3月23日にオンライン公開されました。

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【論文情報】
論文名 Metformin suppresses epithelial sodium channel hyperactivation and its associated phenotypes in a mouse model of obstructive lung diseases
著者名 Ryunosuke Nakashima, Hirofumi Nohara, Noriki Takahashia, Aoi Nasua, Megumi Hayashi, Tomoki Kishimoto, Shunsuke Kamei, Haruka Fujikawa, Kasumi Maruta, Taisei Kawakamia, Yuka Eto, Keiko Ueno-Shuto, Mary Ann Suico, Hirofumi Kai, Tsuyoshi Shuto* (*責任著者)
掲載誌 Journal of Pharmacological Sciences
doi:https://doi.org/10.1016/j.jphs.2022.03.002
URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S1347861322000226?via%3Dihub

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【詳細】 プレスリリース(PDF802KB)

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター
大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学研究室
准教授 首藤 剛
電話:096-371-4407
E-mail:tshuto※gpo.kumamoto-u.ac.jp

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