胎児期の水銀ばく露と子どもの精神神経発達およびけいれん発症の関連について:子どもの健康と環境に関する全国調査(エコチル調査)
【研究の概要】
南九州?沖縄ユニットセンター(熊本大学)の小田政子、倉岡将平の研究チームは、エコチル調査の3,083人のデータからさい帯血※1中のメチル水銀および無機水銀の濃度と子どもの精神神経の発達の関連について解析しました。その結果、メチル水銀、無機水銀共に2歳時および4歳時の発達との明らかな関連は認められませんでした。また、けいれんと熱性けいれんについても明らかな関連は認められませんでした。今回の結果は胎児期の水銀ばく露※2の影響を考える上で大変重要です。今後、妊娠中の適切な水銀ばく露の指標を提言する際に本研究の成果が役立てられることが期待されます。
なお、今回の調査では4歳時までの発達指数を評価したものであり、胎児期の水銀ばく露による長期的な影響に関しては評価できていません。そのため、水銀ばく露と子どもの精神神経発達の関連を明らかにするためには更なる研究が必要です。
本研究の成果は、令和6年11月13日付で環境科学分野の学術誌「Science of The Total Environment」に掲載されました。
※本研究の内容は、すべて著者の意見であり、環境省及び国立環境研究所の見解ではありません。
【ポイント】
- さい帯血からメチル水銀および無機水銀をそれぞれ測定した。
- 2歳時、4歳時に新版K式発達検査2001※3を実施し、発達指数を算出した。
- 4歳時の質問票にてけいれん、熱性けいれんの既往について調査した。
- さい帯血メチル水銀および無機水銀と発達指数との間に関連は認められなかった。
- さい帯血メチル水銀および無機水銀とけいれんとの間に関連は認められなかった。
【展開】
胎児期の水銀ばく露が子どもの健康にどのように影響するのか引き続き調査を継続していきます。魚介類の摂取だけでなく、どのような環境や生活習慣がそれぞれの水銀ばく露につながるのかを明らかにすることで、妊娠中の過ごし方に関する適切な提言につながると考えられます。
本調査の継続により、子どもの発育や健康に影響を与える化学物質等の環境要因が明らかとなることが期待されます。
【用語解説】
※1 さい帯血:赤ちゃんがお母さんのお腹にいる間、へその緒と胎盤を流れている血液のことです。本研究では赤ちゃんが生まれるときにへその緒から採取しています。
※2 ばく露:食べたり、触れたり、吸い込むことで化学物質が体内に取り込まれることを言います。本研究の場合は、胎児がさい帯血を通じて母体から化学物質を体内に取り込むことを指します。
※3 新版K式発達検査2001:子どもの発達の様子を調べるためのテストで、「姿勢?運動」「認知?適応」「言語?社会」の3つの領域に分けて発達を評価します。「姿勢?運動」では体の動きやバランス、細かい動作がどれくらいできるかを見ます。「認知?適応」では周りの状況を理解する力や、物事にうまく対応する力を調べます。「言語?社会」では言葉の使い方や、他の人との関わり方を見ます。この3つの領域における発達指数を踏まえて、総合的な発達指数も算出されます。
【論文情報】
題名(英語):Association between prenatal mercury exposure and pediatric neurodevelopment: the Japan Environment and Children’s Study
著者名(英語):Shohei Kuraoka1,2, Masako Oda1, Takashi Ohba1,3, Hiroshi Mitsubuchi1,4, Miyuki Iwai-Shimada5, Nozomi Tatsuta5, Michihiro Kamijima6, Kimitoshi Nakamura1,2, Takahiko Katoh1,7, and The Japan Environment and Children’s Study (JECS) Group8
1倉岡将平、小田政子、大場隆、三渕浩、中村公俊、加藤貴彦:熊本大学大学院生命科学研究部附属 エコチル調査南九州?沖縄ユニットセンター
2倉岡将平、中村公俊:熊本大学大学院生命科学研究部 小児科学講座
3大場隆:熊本大学大学院生命科学研究部 産婦人科学講座
4三渕浩:福田病院
5岩井美幸、龍田希:国立研究開発法人 国立環境研究所
6上島通浩:名古屋市立大学 医学研究科環境労働衛生学分野
7加藤貴彦:熊本大学大学院生命科学研究部 公衆衛生学
8グループ:コアセンター長、メディカルサポートセンター代表、各ユニットセンター長
掲載誌:Science of the Total Environment
DOI: 10.1016/j.scitotenv.2024.177489
【詳細】 プレスリリース(PDF1,816KB)
お問い合わせ
エコチル調査南九州?沖縄ユニットセンター
倉岡将平
電話:096-373-5191
e-mail:skuraoka※kuh.kumamoto-u.ac.jp
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