がん微小環境を支配する2つの間質細胞を同時に標的化する新規薬物送達担体の開発

【ポイント】

  • 難治性がんに対する新たな治療標的として、がん細胞とその周りの間質細胞*1を含むがん微小環境を改善するアプローチが有望視されていますが、未だ有効な治療法は開発されていません。
  • がん微小環境を支配する間質細胞である、腫瘍関連マクロファージ(TAM)*2とがん関連線維芽細胞(CAF)*3を同時に二重標的化する新規薬物送達担体monoPEG40k-Man-HSAを開発しました。
  • 開発した新規薬物送達担体に抗がん剤パクリタキセル(PTX)を搭載すると、TAMとCAF両者を効率良く認識することでがん微小環境を改善し、優れた抗腫瘍効果を発揮しました。
  • monoPEG-Man-HSAは難治性がんの治療において有望な薬物送達担体であることが明らかとなり、TAMとCAFの二重標的化という新しい治療戦略の有用性が示されました。

【概要説明】

 熊本大学大学院生命科学研究部の水田夕稀研究員、前田仁志助教、渡邊博志准教授、丸山徹教授らの研究グループは、徳島大学大学院医歯薬学研究部の異島優准教授、熊本大学大学院生命科学研究部の猿渡淳二教授、同大学院先導機構/大学院薬学教育部の中村照也准教授、崇城大学薬学部の平田憲史郎講師、小田切優樹特任教授、第一薬科大学薬学部の有馬英俊教授らとの共同研究により、がん悪性化に重要ながん微小環境を支配する腫瘍関連マクロファージ(TAM)及びがん関連線維芽細胞(CAF)を二重標的化する新規薬物送達担体monoPEG40k-Man-HSAを開発しました。

 本研究では、難治性がんに対する治療標的としてがん微小環境に注目し、がん微小環境に存在するTAMとCAFを同時に標的化する抗がん剤送達システムを開発しました。

 本研究で新たに開発した新規薬物送達担体monoPEG40k-Man-HSAは、B16F10メラノーマ担がんマウス*4において、高い腫瘍移行性とTAM/CAF標的能を兼ね備えた薬物送達担体であることが示されました。さらに抗がん剤パクリタキセル(PTX)を搭載したPTX-monoPEG40k-Man-HSAは、マンノース受容体を介してTAMとCAF両者を効率良く認識することで、がん微小環境を改善し、優れた抗腫瘍効果を発揮することが明らかになりました。

 本研究成果は、monoPEG-Man-HSAが難治性がんの治療において有望な薬物送達担体であることを明らかにしただけではなく、TAMとCAFの二重標的化という新しい治療戦略の有用性を示しており、今後の更なる応用が期待されます。

 なお、本成果は科学誌「Advanced Functional Materials」オンライン版へ令和3年8月4日に掲載されました。本研究は、文部科学省科学研究費助成事業の支援を受けて実施したものです。

【用語解説】

*1:がん間質細胞
 がん間質に存在する、免疫細胞や線維芽細胞、血管内皮細胞などの総称。間質細胞の主成分は、腫瘍関連マクロファージ(TAM)とがん関連線維芽細胞(CAF)であることが報告されている。難治性がんのがん組織では特に、間質細胞が様々な因子を分泌することで、がん細胞の増殖や進展を促進することが明らかになっている。

*2:腫瘍関連マクロファージ(tumor-associated macrophage : TAM)
 がんの発生初期からがん組織へ浸潤し、がん微小環境の中で性質が変わり腫瘍促進能を持つようになったマクロファージのことを指す。多くのがん種において浸潤が観察され、その浸潤量が多いと予後が悪いケースが多い。腫瘍免疫を抑制する働きを担っている。

*3:がん関連線維芽細胞(cancer-associated fibroblast : CAF)
 増殖や移動能に優れている活性化線維芽細胞。がん組織形成時には、過剰なコラーゲンの産生によりがん間質を形成することで腫瘍巣を組織として安定化させる足場設計の役割を担っており、がんの転移時には、がん細胞の浸潤を促進する因子を産生することも報告されている。

*4:B16F10メラノーマ担がんマウス
 皮膚がん細胞であるB16F10メラノーマ細胞を背部皮下に移植し腫瘍を形成させた担がんモデルマウス。がん組織内にはTAMやCAFが存在しており、予後不良な悪性腫瘍モデルとして汎用されている。

?【論文情報】

論文名:“A Mannosylated, PEGylated Albumin as a Drug Delivery System for the Treatment of Cancer Stroma Cells”
著者:Yuki Mizuta, Hitoshi Maeda,* Yu Ishima,Yuki Minayoshi,Shota Ichimizu, Ryo Kinoshita, Issei Fujita, Takuma Kai,Kenshiro Hirata, Teruya Nakamura, Junji Saruwatari, Hidetoshi Arima, Hiroshi Watanabe, Masaki Otagiri and Toru Maruyama*
掲載誌:Advanced Functional Materials
doi:doi.org/10.1002/adfm.202104136
URL:https://onlinelibrary.wiley.com/doi/full/10.1002/adfm.202104136

?【詳細】 プレスリリース(PDF879KB)

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熊本大学大学院生命科学研究部(薬)
担当:助教 前田仁志
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