温熱?電気療法による熱応答経路活性化が、非アルコール性脂肪性肝疾患の数値を改善
【ポイント】
- 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)※1は、メタボリックシンドロームや2型糖尿病※2などの代謝異常を伴いやすく、生活習慣病の中でも罹患率が高い重要な疾患です。
- 本来あるべきストレス抵抗能力は、慢性高血糖や炎症の持続により低下します。熱ショック応答経路※3は重要な身体恒常性維持能力の1つで、ストレスに対する生体防御として働きます。
- 温熱療法(HS)と適切な電流刺激(MES)の併用(HS+MES)は、熱ショック応答経路を活性化し、代謝異常疾患のインスリン抵抗性、高血糖、慢性炎症、内臓脂肪過多などを改善します。
- HS+MES治療は、メタボリックシンドロームにおいてNAFLD脂肪変性マーカーの数値を改善し、2型糖尿病においてNAFLD脂肪変性マーカーと線維化マーカーの数値を改善しました。また、これらは、HS+MES治療の累積暴露時間が長いほど改善がみられました。
【概要説明】
熊本大学病院糖尿病?代謝?内分泌内科 近藤龍也講師、熊本大学大学院医学教育部 宮川展和氏、熊本大学大学院生命科学研究部代謝内科学 荒木栄一教授、同研究部遺伝子機能応用学 甲斐広文教授らの研究グループは、物理的刺激による熱ショック応答経路の活性化が、メタボリックシンドロームと2型糖尿病患者の非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の病態を示すバイオマーカーの数値を改善することを見出しました。NAFLDは2型糖尿病などの生活習慣病に併存しやすい代謝異常で、インスリン抵抗性や小胞体ストレス、慢性炎症などによって発症します。本研究グループは、これまでの研究で、温熱療法(HS: Heat Shock)と適切な電流刺激(MES: Mild Electrical Stimulation)の併用(HS+MES)により熱ショック応答経路を活性化し、代謝異常疾患のインスリン抵抗性、高血糖、慢性炎症、内臓脂肪過多などが改善することを報告してきました。今回新たにNAFLDバイオマーカーの数値の改善効果も認められたことにより、HS+MES治療が幅広い代謝異常疾患に対する治療の選択肢として考えられることとなり、実臨床での応用が期待されます。
なお、本研究は欧州科学誌「Endocrine Connections」に令和3年5月1日付で掲載されました。本研究は、日本学術振興会科学研究費補助金の支援を受けて実施したものです。
【展開】
これまでの研究で、いくつかの2型糖尿病治療薬が、NAFLD治療に有効である可能性が報告されていますが、実臨床においてNAFLD治療適応を持つ薬剤は存在していません。本治療法は、経口薬や注射による薬物療法と異なり、ヒトが本来持っているストレス抵抗能力を、外的な温熱と微弱電流刺激により物理的に活性化する新規治療法です。メタボリックシンドロームや2型糖尿病患者における耐糖能、インスリン抵抗性、慢性炎症あるいは合併症に対する有効性も過去に報告しており(EBio Medicine 2014, Scientific Reports 2016) 、新たにNAFLD治療法としての可能性が示されたことから、HS+MES治療は幅広い代謝異常に対して適応拡大できる可能性が期待されます。
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【用語解説】
※1 非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)
アルコール過剰摂取によるものではない、肝臓への脂肪蓄積を病態とする疾患の総称。単純な脂肪肝から、炎症が悪化した非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)まで幅広い病態を含む。さらに進行すれば肝線維化を伴う肝硬変、そして最終的には肝細胞癌発症に至ることもある。
※2 2型糖尿病
インスリン作用の相対的不足による慢性の高血糖状態を主徴とする代謝疾患群。インスリン抵抗性、インスリン分泌不全、慢性炎症、小胞体ストレス、酸化ストレスなど種々の病態が複雑に組み合わさっている。長期的な慢性高血糖は、糖尿病特有の細小血管合併症(網膜症、腎症、神経障害)を引き起こすとともに、全身の動脈硬化症が促進され心筋梗塞、脳梗塞、下肢閉塞性動脈硬化症などの原因となる。
※3 熱ショック応答経路
外的な温熱刺激に対して、熱ショックタンパク質を産生し、生体防御を担う基本的なストレス抵抗性獲得応答経路。種々の生物において進化的に保存されており、特にHSP72タンパクの産生を介して異常タンパクの修復やストレス応答反応活性化、抗炎症作用、抗糖尿病作用などを発揮する。
【論文情報】
- 論文名:Activation of heat shock response improves biomarkers of NAFLD in patients with metabolic diseases.
(和訳)熱ショック応答経路の活性化は代謝異常疾患に付随する非アルコール性脂肪性肝疾患のバイオマーカーを改善する。
- 著者:Tatsuya Kondo?,?Nobukazu Miyakawa?,?Sayaka Kitano?,?Takuro Watanabe?,?Rieko Goto?,?Mary Ann Suico?,?Miki Sato?,?Yuki Takaki?,?Masaji Sakaguchi?,?Motoyuki Igata?,?Junji Kawashima?,?Hiroyuki Motoshima?,?Takeshi Matsumura?,?Hirofumi Kai?,?Eiichi Araki
- 掲載誌:Endocrine Connections(欧州内分泌学会誌)
- DOI:10.1530/EC-21-0084
- URL:https://ec.bioscientifica.com/view/journals/ec/aop/ec-21-0084/ec-21-0084.xml
【詳細】 プレスリリース(PDF724KB)
お問い合わせ??
熊本大学病院 糖尿病?代謝?内分泌内科
担当:近藤龍也(講師)
電話:096-373-5169
E-mail:t-kondo※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)