機械学習により高齢者の大腿骨骨折を家庭で予測する8因子を同定~骨折予防への発展に期待~

【ポイント】

  • 高齢者の骨粗鬆症を背景とした大腿骨骨折は毎年増加し続けており、骨折後の生命予後は極めて悪く認知症の発症や要介護のリスクが急激に高まるので予防が重要です。
  • 多施設共同研究により大腿骨骨折患者1,395名を登録して、骨折リスクについて機械学習を用いて網羅的に評価を行った結果、8個の因子を同定しました。それぞれの重要度に基づきスコア化することで、大腿骨骨折のリスク判定ツールを作成しました。
  • 本ツールの活用により、家庭で高齢者が大腿骨骨折のリスクがあることに気付きやすくなることで、骨折を予防することへの発展が期待されます。


【説明】

[背景]
 高齢者の大腿骨骨折は増加の一途を辿っており、国内の年間の発生数は20万件を超え、なお増加し続けています。骨折後の生命予後は極めて悪く、日常生活動作レベル*1の低下、要介護化のほか、高額な医療費など、多くの課題を抱えています。しかし、大腿骨骨折のリスクから骨折の発生を予測し、骨折そのものを予防する取り組みは限定的でした。また、大腿骨骨折の大半は転倒によるものですが、骨粗鬆症に加えて転倒を含めて骨折リスクを予測するツールは今のところ存在しません。

[研究の内容]
 今回、大学院生命科学研究部の宮本 健史教授らの研究グループは、多施設共同研究により大腿骨骨折患者1,395名、非大腿骨骨折患者1,075名を登録し、過去に報告されている大腿骨骨折のリスクについて機械学習を用いて網羅的に評価し、8個のリスク因子を同定しました。各因子の大腿骨骨折発生に対する重要度についても同様に機械学習を用いて評価を行い、各因子の重要度をスコア化しました。

[成果]
 8個のリスク因子は、(1)日常生活動作レベル、(2)ロコモーティブシンドローム、(3)過去12ヶ月以内の転倒歴、(4)1日あたりのお茶の摂取、(5)認知機能、(6)骨粗鬆症の薬物治療、(7)歩行状態及び(8)歩行時間です。
これらそれぞれの因子について、大腿骨骨折発生に対する寄与度を機械学習を用いて判定し、寄与度に応じたスコアを付した結果、日常生活動作レベル*1の低下があると5点、ロコモーティブシンドロームがロコモ度3*2と判定されると4点、過去12ヶ月以内に3回以上の転倒歴があると2点、1日のお茶の摂取が5杯以上だと-2点、認知機能障害が少しでもあると2点、骨粗鬆症の薬物治療を受けていると-1点、補助具なしで歩行している場合は1点、少しでも歩行していると1点、とスコア化しました。これらを合計した結果、合計点が5点以上で大腿骨骨折のリスクありと判定されることが明らかとなり、カットオフ値*3を5点と決定しました。
  本研究成果は、学術雑誌「Bone」において、令和5年8月15日に速報版が公開されました。

[展開]
 大腿骨骨折は高齢者の代表的な骨折で、今後も増加することが予想されています。大腿骨骨折は骨折して初めて自分にリスクがあったことに気が付くことも少なくなく、骨折する前に自身の骨折リスクを知るツールが求められていました。今回の大腿骨骨折の骨折リスク判定ツールは、病院等での採血等の検査が不要で、機械学習の知識がなくても家庭で実施が可能なものとして設計されました。自身にリスクがあると判定された場合には、病院を受診するなどして適切な加療を受けることで、骨折を未然に防ぐことが期待されます。



【用語解説】
※1 日常生活動作レベル
食事やトイレ動作などの日常生活の自立度で、Barthel indexという国際的な指標を用いて評価しています。満点は100点で、今回は少しでも日常生活動作の自立度が落ちて100点未満になると大腿骨骨折のリスクになることが分かりました。
※2 ロコモーティブシンドロームのロコモ度3
ロコモーティブシンドロームとは、日本整形外科学会が提唱している移動能力が低下した状態のことで、将来要介護のリスクが高くなるとされています。ロコモーティブシンドロームはその程度に応じてロコモ度1~3に分類され、ロコモ度3が最重症です。ロコモ度はいくつかの方法で算出が可能ですが、家庭でアンケート形式で評価できる「ロコモ25」で24点以上の場合に、ロコモ度3と判定します。
※3 カットオフ値
病態を識別するための検査?測定に用いられ、基準範囲を基本として正常とみなす範囲を決めるとき、その範囲を区切る値のこと。



【論文情報】

  • 論文名:A machine learning-based scoring system and ten factors associated with hip fracture occurrence in the elderly
  • 著者:Masaru Uragami, Kozo Matsushita, Yuto Shibata, Shu Takata, Tatsuki Karasugi, Takanao Sueyoshi, Tetsuro Masuda, Takayuki Nakamura, Takuya Tokunaga, Satoshi Hisanaga, Masaki Yugami, Kazuki Sugimoto, Ryuji Yonemitsu, Katsumasa Ideo, Yuko Fukuma, Kosei Takata, Takahiro Arima, Jyunki Kawakami, Kazuya Maeda, Naoto Yoshimura, Hideto Matsunaga, Yuki Kai, Shuntaro Tanimura, Masaki Shimada, Makoto Tateyama, Kana Miyamoto, Ryuta Kubo, Rui Tajiri, Xiao Tian, Fuka Homma, Jun Morinaga, Yoshinori Yamanouchi, Minoru Takebayashi, Naoto Kajitani, Yusuke Uehara, Kumamoto Stop OsteoPorotic hip fractures (K-STOP) group and Takeshi Miyamoto
  • 掲載誌:Bone
  • doi:https://doi.org/10.1016/j.bone.2023.116865
  • URL:https://www.sciencedirect.com/science/article/pii/S8756328223001989



【参考】

ロコモ度テスト「ロコモ25」について
?オンラインチェック
 https://locomo-joa.jp/check/test/locomo25.html
?チェックシート(結果記入用紙)
 https://locomo-joa.jp/assets/pdf/locomo25.pdf

【詳細】 プレスリリース(PDF227KB)

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<熊本大学SDGs宣言>

お問い合わせ

熊本大学大学院生命科学研究部
担当:教授 宮本 健史
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E-mail:miyamoto.takeshi※kuh.kumamoto-u.ac.jp

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