誕生途上のタンパク質が立体構造を形成する新たな仕組みを解明

【ポイント】

  • 翻訳合成途上のタンパク質(新生鎖)へのジスルフィド結合注1導入を検出するシステムを独自に開発した。
  • 高速原子間力顕微鏡注2を用いた観察により、PDIファミリー酵素注3が新生ポリペプチド鎖(新生鎖)注4を認識?結合する様子を一分子レベルで可視化することに成功した。
  • 代表的な二つのPDIファミリー酵素であるPDIとERp46間で、新生鎖に作用する機構、タイミング、効率が異なることを発見し、両酵素の機能の違いが明らかとなった。

【概要説明】

 タンパク質の合成や折りたたみがうまくできなくなると、神経変性疾患や糖尿病などの原因となることが知られていますが、合成途上のタンパク質が「正しい」立体構造を形成するしくみについての理解は進んでいませんでした。東北大学多元物質科学研究所の平山千尋博士課程学生、稲葉謙次教授(生命科学研究科、理学研究科化学専攻 兼担)、東北大学学際科学フロンティア研究所の奥村正樹助教、兵庫県立大学大学院工学研究科の今高寛晃教授、町田幸大准教授、大阪大学ナノサイエンスデザイン教育研究センターの野井健太郎特任助教(常勤)、および熊本大学大学院生命科学研究部の小椋光特任教授(研究当時:熊本大学発生医学研究所教授)らを中心とした共同研究グループは、リボソーム注5による新生ポリペプチド鎖(新生鎖)の翻訳合成中にPDI (Protein Disulfide Isomerase) ファミリー酵素であるPDIとERp46が作用する様子を、独自に開発した検出システムおよび高速原子間力顕微鏡を用いて、世界で初めて観察することに成功しました。これにより、細胞内タンパク質恒常性維持に関する重要な知見が得られました。

 本成果は、2021年3月9日、米国科学誌iScienceにオンライン掲載されました。

【今後の展開】

 本研究では、再構成型タンパク質翻訳システムを採用し、翻訳停止したRNCを用いて解析を行いましたが、本来、新生鎖は小胞体膜中に存在するタンパク質膜透過装置(Sec61トランスロコンチャネル)を介して小胞体内腔に挿入されます。そこで、このトランスロコンチャネルがPDIファミリー酵素による新生鎖の酸化的フォールディングにどのように関与するかは未解明の問題として残されています。また、本研究によって得られた知見を細胞内での現象の解明につなげるため、各PDIファミリー酵素がどの基質に対して、どこまで伸長した時にジスルフィド結合を導入するのかを網羅的に解析する必要もあります。

 新生鎖のフォールディング補助機構の解明は、現在も国内外で活発に研究されている細胞内タンパク質恒常性維持に関する重要な知見の提供につながると期待しています。タンパク質恒常性維持機構の破綻はアルツハイマー病やハンチントン病等の神経変性疾患や糖尿病等の原因となることが知られていることからも、本研究内容は基礎分子生物学のみならず医学的にも重要な知見を与えていると言えます。

【用語解説】

注1)ジスルフィド結合:タンパク質中の2つのシステイン残基が2電子酸化を受けることによって形成される、硫黄原子間の共有結合。タンパク質立体構造の形成、安定化に寄与する。

注2)高速原子間力顕微鏡:基板に固定した分子を、針でタップしながら高速に走査することで、分子の形状と動きを一分子レベルでリアルタイムに可視化することが可能なナノテクノロジー。

注3)PDIファミリー酵素:ジスルフィド結合の形成、組み換え、開裂を触媒する小胞体中に存在する酵素群のこと。哺乳動物細胞の小胞体内腔では、20種類以上ものPDIファミリー酵素が存在する。

注4)新生ポリペプチド鎖(新生鎖):リボソームによって合成途上の、アミノ酸が連なった新生タンパク質。

注5)リボソーム:細胞内でmRNAに刻まれた塩基配列情報をもとにタンパク質の合成を行う、RNAとタンパク質からなる超分子複合体。

【論文情報】

    • 論文名:Distinct roles and actions of protein disulfide isomerase family enzymes in catalysis of nascent-chain disulfide bond formation
    • 著者:Hirayama, C., Machida, K., Noi, K., Murakawa, T., Okumura, M., Ogura, T., Imataka, H. and Inaba, K.*
    • 掲載雑誌:iScience
    • DOI:https://doi.org/10.1016/j.isci.2021.102296

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF1407KB)

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