アルポート症候群に対する核酸医薬を用いた新規治療法開発ー難治性遺伝性腎疾患モデル動物に著効することを確認ー

【概要説明】

 神戸大学大学院医学研究科内科系講座小児科学分野の野津寛大特命教授、山村智彦助教、松尾雅文前教授、飯島一誠教授ら、同医療情報部の髙岡裕准教授および、熊本大学の甲斐広文教授ら、理化学研究所の髙里実チームリーダーらのグループが、第一三共株式会社との共同研究で、これまで治療法がなくほとんどの患者が進行して腎不全を発症する難治性の腎疾患を呈するアルポート症候群に対し、核酸医薬*1 を用いた特異的治療法としてエクソンスキッピング療法の開発を行い、同療法が疾患モデル動物において著効することを明らかにしました。
 研究成果は、2020年6月2日(現地時間)に、国際科学誌「Nature Communications」にオンライン公開されました。

【ポイント】

● アルポート症候群は腎炎、難聴、目の合併症(円錐水晶体や白内障など)を伴う遺伝性の疾患で、そのほとんどがX 染色体連鎖型*2 の疾患であるため、特に男性で重症の症状を呈する。
● 具体的には男性患者では40 歳までに90%が腎不全になり、透析や腎臓移植などの腎代替療法が必要になる。また、特にアルポート症候群の原因遺伝子であるCOL4A5 に重症型の変異(ナンセンス変異*3 など)を有する場合が重症で、20 歳代前半で末期腎不全に進行することが知られている。
● 本研究チームは、重症型の変異を有するアルポート症候群患者に対する、核酸医薬を用いたエクソンスキッピング療法により、軽症型の遺伝子変異に置換する治療法を開発した。
● 本治療法により、疾患モデルマウスで腎機能悪化を抑制し、生存期間も著明に延長させることができ、疾患モデルマウスの腎不全進行に対して著効することを証明した。
● この研究成果は、現在まで根治療法の無いアルポート症候群に対する、世界で初めての特異的治療法の開発に大きく貢献することが期待できる。

【今後の展開】  

 現在、モデル動物において薬剤の投与量の決定および安全性を評価する試験を進行中であり、これらの評価が終了後、患者さんに対する治験を行う予定です。

【用語解説】

*1  核酸医薬;核酸医薬とは、生物の遺伝情報を司る、DNA やRNA の構成成分であるヌクレオチドを基本骨格とする医薬品の総称であり、低分子医薬品、抗体医薬品に続く第3 の医薬品と言われ大変注目されている。従来の医薬品では治療が難しかった疾患を根治する可能性を秘めた、次代の医療を支える医薬品として期待されている。
*2  X 染色体連鎖型遺伝性疾患;X 染色体上にコードされている遺伝子の異常により発症する遺伝性疾患。男性はX 染色体が1 本のみであるため、2 本保持している女性に比較し重症の臨床像を呈することを特徴とする。
*3  ナンセンス変異;遺伝子上の塩基配列の異常(遺伝子変異)のうち、ストップコドンが形成される変異をさす。その場合、ナンセンス変異を有する場所で産生されるタンパクが途切れるため、不完全なタンパクが産生される。一方、同じ遺伝子変異でもミスセンス変異といわれる変異は一つのアミノ酸が他のアミノ酸に置換されるため異常な蛋白が産生されるが、タンパクは途切れず、全長産生される。そのため、XLAS においてはナンセンス変異を有する場合は最重症の臨床像を呈する。 

【論文情報】
● 論文名:Development of an Exon skipping therapy for X-linked Alport syndrome with truncating variants in COL4A5

● 著者名:Tomohiko Yamamura(1), Tomoko Horinouchi(1), Tomomi Adachi(2), Maki Terakawa(2), Yutaka Takaoka(3), Kohei Omachi(4), Minoru Takasato(5), Kiyosumi Takaishi(2), Takao Shoji(6), Yoshiyuki Onishi(6), Yoshito Kanazawa(6),
Makoto Koizumi(6), Yasuko Tomono(7), Aki Sugano(3), Akemi Shono(1), Shogo Minamikawa(1), China Nagano(1), Nana
Sakakibara(1), Shinya Ishiko(1), Yuya Aoto(1), Misato Kamura(4), Yutaka Harita(8), Kenichiro Miura(9), Shoichiro
Kanda(8), Naoya Morisada(1), Rini Rossanti(1), Ming Juan Ye(1), Yoshimi Nozu(1), Masafumi Matsuo(10), Hirofumi Kai(4),
Kazumoto Iijima(1) and Kandai Nozu(1*)

1. Department of Pediatrics, Kobe University Graduate School of Medicine
2. Rare Disease Laboratories, Daiichi Sankyo Co., Ltd, Shinagawa
3. Division of Medical Informatics and Bioinformatics, Kobe University Hospital
4. Department of Molecular Medicine, Graduate School of Pharmaceutical Sciences, Kumamoto University
5. RIKEN Center for Developmental Biology
6. Modality Research Laboratories, Daiichi Sankyo Co., Ltd, Shinagawa
7. Division of Molecular Cell Biology, Shigei Medical Research Institute
8. Department of Pediatrics, Graduate School of Medicine, The University of Tokyo
9. Department of Pediatric Nephrology, Tokyo Women’s Medical University
10. Department of Physical Therapy, Faculty of Rehabilitation, Kobe Gakuin University

● 掲載雑誌:Nature Communications

● doi:10.1038/s41467-020-16605-x

【詳細】 プレスリリース(PDF 767KB)

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熊本大学大学院生命科学研究部附属グローバル天然物科学研究センター 
大学院薬学教育部 遺伝子機能応用学研究室

教授:甲斐 広文(かい ひろふみ)
電話: 096-371-4405
e-mail: hirokai※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)