植物の成長ー防御バランスを調節する仕組みを解明
【ポイント】
● 植物が病原体感染から守るために合成?蓄積する防御ホルモンが、植物自身の成長を妨げないようバランスを調整している仕組みを解明しました。
● 植物が線虫に感染した際に植物の成長と防御のバランスを保つ役割を果たす遺伝子としてDEL1を同定しました。
● 本成果により、農作物の品種改良や他の様々な病原体感染機構の解明への発展が期待されます。
【概要説明】
熊本大学大学院先端科学研究部の澤進一郎 教授、戸田敬 教授らの研究グループは、植物の成長と防御のバランスを調節する仕組みを解明しました。
農作物をはじめとする植物は私たちの生活に必須である一方で、つねに病原体感染のリスクにさらされています。このリスクから守るため植物は、防御ホルモンであるサリチル酸やポリフェノールの一種であるリグニンを合成、蓄積することで病原体に対する抵抗性を獲得します。一方で、このような防御機構はいわば諸刃の剣であり、サリチル酸やリグニンの過剰蓄積は植物の成長そのものを著しく妨げます。したがって、植物は自身の成長と病原体に対する防御のバランスを調節していると考えられています。しかし、植物の成長-防御バランス調節機構はこれまでほとんどわかっていませんでした。
今回私たちは、病原体の一種である線虫類とモデル植物であるシロイヌナズナを用いて、線虫感染時における植物の成長-防御のバランスを保つ役割を果たす遺伝子を探索し、DEL1遺伝子を同定しました。DEL1遺伝子を持たない植物(DEL1欠損体)では、線虫感染後にサリチル酸やリグニンが高蓄積していました。さらに、DEL1欠損体では線虫に対する抵抗力が強くなりました。一方で、線虫に感染した場合のみ、DEL1欠損体の根の成長が著しく悪くなりました。
本研究により、DEL1が植物の抵抗力と成長のバランス調節を担っていることがわかりました。特にこのような仕組みが根において存在することが明らかとなったのは初めてのことです。本成果により、農作物の品種改良、様々な病原体の感染機構解明などに貢献することが期待されます。
本研究成果は令和2年6月1日(月)18時(日本時間)に科学雑誌「Scientific Reports」に論文が掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業の支援を受けて実施したものです。
【論文情報】
?論文名:The atypical E2F transcription factor DEL1 modulates growth–defense tradeoffs of host plants during root-knot nematode infection(転写因子DEL1はネコブセンチュウ感染において宿主植物の成長-防御トレードオフを調節する)
?著者名 :Satoru Nakagami, Kentaro Saeki, Kei Toda, Takashi Ishida, Shinichiro Sawa
?雑誌名:Scientific Reports
?URL:https://www.nature.com/articles/s41598-020-65733-3
詳細:プレスリリース本文(327KB)
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教授 澤 進一郎
TEL:080-4365-8483
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