酸化物高温強磁性半導体に潜む 特異な原子配列の3D原子像化に成功-高温強磁性の謎解明へ-

〇原子分解能をもつ蛍光X線ホログラフィーを、高温強磁性半導体に適用
〇磁性元素を中心とした特異な原子配列(亜酸化ナノ構造体)を発見
〇亜酸化ナノ構造体の性質解明を推し進めることにより、新しい高温強磁性半導体のデザイン?開発に期待

国立大学法人東北大学金属材料研究所 林好一准教授、国立研究開発法人日本原子力研究開発機構 胡雯博士研究員(現米国ブルックヘブン国立研究所)を中心とする研究グループは、国立大学法人東京大学大学院、公立大学法人広島市立大学、国立大学法人熊本大学、公益財団法人高輝度光科学研究センターとの共同研究により、酸化物高温強磁性半導体に潜む亜酸化ナノ構造体を原子レベルで三次元的に可視化することに成功し、高温強磁性発現の謎解明に向けて大きく前進しました。

磁石の性質(強磁性)と半導体の性質を併せ持つ強磁性半導体1)は、電力を必要としない磁気スイッチングデバイスとして省エネルギー社会を実現するスピントロニクス材料の第一候補として注目されています。これを情報処理機器などに実装させる場合には、室温以上の温度で動作させることが必要ですが、多くの強磁性半導体のキュリー温度2)は0 ℃以下を示すため、実環境では強磁性を失ってしまい、その特性を発揮しません。その中で、磁性元素3)であるコバルトを5%の濃度で添加した酸化チタン(TiO2)4)薄膜は、キュリー温度が300℃と際立って高く、実用化が大きく期待されています。しかし、何故このような高いキュリー温度を示すのか、その理由は発見以来の謎とされてきました。

本研究では、蛍光X線ホログラフィー5)と呼ばれる原子配列を三次元可視化できる手法を用いてコバルト添加酸化チタン薄膜を観測したところ、コバルト周辺では周辺の酸素やチタンと協調して、10数原子から成る亜酸化ナノ構造体を形成していることを発見しました。亜酸化物6)とは金属などが僅かに酸化した化合物を指し、自然界では存在し得ない極めて不安定な状態です。それがコバルトの磁性を増強するナノ構造体として酸化チタン薄膜の中に埋め込まれ、キュリー温度の劇的な向上に関与していることは、驚くべき事実です。

今回の成果により、コバルトを中心とした機能発現サイト7)の特異な構造が材料の高機能性に強く影響していることを実証しました。今後、高機能を創出する機能発現サイトのデザインとそれを実現する薄膜作製技術の高度化を強力に推し進めることにより、強磁性半導体の実用化、ひいては我が国の推進するグリーンイノベーションに大きく貢献するものと思われます。

本研究内容は2015年6月3日(日本時間)に、米国科学誌Applied Physics Lettersにオンライン掲載されました。
(URL: http://scitation.aip.org/content/aip/journal/apl/106/22/10.1063/1.4921847

【書誌情報】
雑誌名:Applied Physics Letters
タイトル:Spontaneous formation of suboxidic coordination around Co in ferromagnetic rutile Ti0.95Co0.5O2
著者:W. Hu1, K. Hayashi2, T. Fukumura3, K. Akagi4, M. Tsukada4, N. Happo5, S. Hosokawa6, K. Ohwada7, M. Takahasi7, M. Suzuki8, and M. Kawasaki9

所属:1ブルックヘブン国立研究所、2東北大学金属材料研究所、3 東京大学大学院理学研究科、4東北大学WPI、5広島市立大学、6熊本大学、7日本原子力研究開発機構、8高輝度光科学研究センター、9東京大学大学院工学研究科
doi: 10.1063/1.4921847

【詳細】 プレスリリース本文 (PDF 808KB)

お問い合わせ
(研究内容について)
国立大学法人東北大学
金属材料研究所 准教授 林好一?? TEL:022-215-2078
国立研究開発法人日本原子力研究開発機構
放射光量子物性研究ディビジョン
博士研究員 胡雯(Hu Wen:現ブルックヘブン国立研究所)、主任研究員 大和田謙二、主任研究員 高橋正光
TEL:0791-58-2639

(報道担当)
熊本大学 マーケティング推進部広報戦略ユニット       TEL:096-342-3122