イヌはヒトに共感する能力を有している ヒトの情動変化に応じたイヌの情動変化が観察された

【ポイント】

  • ヒトとイヌの情動の変化を、心拍変動解析を用いて、10秒間隔で計測した。
  • 飼い主とイヌとの間で、同調した心拍変動が認められた。
  • 飼育期間が長くなることで、この同調率が上昇した。またメスのほうがオスよりも同調した。
  • 情動の伝染の進化要因として、遺伝的なものよりも生活空間の共有が重要であるという理論に一致した結果が得られた。

?【説明】

 イヌは1万5千年から3万5千年以上前に登場し、ヒトと共生を始めた最も古い家畜です。この共生の過程において、イヌはヒトの出すシグナル、例えば指差しや視線などに対して高い反応性を示すことがわかっています。さらにヒトの情動の変化の違いも認知できることが知られていました。この高い社会認知能力を獲得したことにより、イヌはヒトと視線を介してお互いが絆形成や信頼に関わるホルモン「オキシトシン」を分泌し、絆を形成することができる、特別な動物となり、現代のヒト社会において、最も広く受け入れられるようになりました。
 親和的な関係にある個体間では、お互いの情動が同調しあう「情動伝染」が認められます。例えば、子供が悲しい思いをすると親も辛くなる、チームメイトが活躍し嬉しいと自分も嬉しくなる、などがその例です。この情動伝染は共感の起源的な機能と言われ、また他者視点などの高い認知能力を必要としないことから、サルやマウスでも観察されてきました。これまでヒトとイヌの間における情動伝染の研究では、ヒトが悲しそうな顔をしたときのイヌの行動変化などが調べられてきましたが、秒単位で変化する情動を正確に評価することができていませんでした。そのため、ヒトとイヌのような異種間での情動伝染の存在を確実に証明した研究はありませんでした。


 今回、本学大学院先端科学研究部 山川俊貴准教授は、麻布大学、奈良先端科学技術大学院大学、名古屋大学の研究チームとともに、ヒトとイヌの情動を、心拍変動解析を用いて秒単位で評価することにより、ヒトとイヌの情動変化が同期して変化することを初めて明らかにしました。
 実験では13組の飼い主とイヌのペアを解析しました。飼い主には、イヌから見える位置に座ってもらい、見学者の前で安静にする、あるいは暗算や文章の説明のような心的なストレスを経験してもらいました。その最中、イヌと飼い主の心拍をモニタし、また行動をビデオで解析しました。その結果、いくつかの飼い主とイヌのペアでは心拍変動解析の数値が同期化しました。
 しかし、すべての飼い主とイヌのペアで心拍変動解析の数値が同期化するわけではありませんでした。そこで、その違いを調べると、飼育期間が長い飼い主では同期しやすいことがわかりました。
 今回の研究から、ヒトの情動変化がイヌの情動変化へと伝染することがわかりました。その伝染は秒単位での変化として検出されました。また、飼い主との生活が長くなることで、伝染しやすくなることも示されました。これまで、この「情動伝染」の進化理論として、遺伝的関係性よりも生活環境の共有がその進化要因であることが示されていました。今回、ヒトとイヌという異種間(遺伝的には関係のない個体間)において、飼育期間が長いことつまり生活環境の共有が長いことによって情動伝染が起こりやすいことが示され、進化理論に合致した結果となりました。
 ヒトとイヌの共生の歴史において、情動伝染の存在は、相互理解や協力関係の構築において重要であると思われます。今回の結果から、ヒトとイヌの長くそして深い関係性の一端が明らかになりました。

【論文情報】
論文名:Emotional contagion from humans to dogs is facilitated by duration of ownership.
著者:Maki Katayama, Takatomi Kubo, Toshitaka Yamakawa, Koichi Fujiwara, Kensaku Nomoto, Kazushi Ikeda, Kazutaka Mogi, Miho Nagasawa and Takefumi Kikusui
掲載誌:Frontiers in Psychology
doi:10.3389/fpsyg.2019.01678


【詳細】
プレスリリース本文(PDF1122KB)

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