飛べない鳥エミューの翼が短くなる新たなメカニズムを解明-胚や胎児の運動の違いが形態の進化を引き起こす可能性-
【ポイント】
- エミューの翼の骨の短縮や左右非対称な融合は、筋形成不全により胚発生中に翼の骨へのメカノストレスが不足するためと解明
- 胚の翼の原基に生じる筋前駆細胞の細胞死によって筋形成不全が生じることを発見
- 胚や胎児の運動の違いが形態の進化の原因となる可能性を示唆
【概要説明】
??? 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の田中幹子教授と坪井絵里子大学院生(研究当時)、小野沙桃実大学院生、イングリッド?ローゼンバーグ?コルデイロ(Ingrid Rosenburg Cordeiro)大学院生(研究当時)らは、基礎生物学研究所の重信秀治教授、熊本大学のゴジュン?シェン(Guojun Sheng)教授、東京慈恵会医科大学の岡部正隆教授らと共同で、エミューの翼の骨格パターンの解析と翼の筋肉の発生プロセスの解析から、エミューの翼の退縮にこれまで知られていた遺伝的な原因だけでなく、新たなメカニズムが存在することを明らかにした。
飛べない鳥であるエミューは、翼が著しく退縮しているが、その形態形成のメカニズムには不明な点が多かった。今回の研究では、エミューの翼の骨格が退縮しているだけでなく、左右非対称なパターンを示していることが分かった。そしてその原因が翼の先端に筋肉が作られないために、胚発生中に翼をほとんど動かせず、骨の発生に必要なメカノストレス(用語1)を翼の骨になる細胞が十分に受け取れていないためであることが示された。さらに、エミューの翼の先端に筋肉がないのは、体節(用語2)由来の筋前駆細胞と側板中胚葉(用語3)細胞の二重のアイデンティティを持つ筋前駆細胞が存在し、これらが融合して筋繊維になるときに、細胞死(用語4)を起こすためであることを明らかにした。今回の研究成果は、胚や胎児の運動の違いが、形態の進化を起こす可能性があることを示唆している。
本研究成果は9月19日(現地時間)の「Nature Communications」で公開された。
【今後の展開】
今回の研究は、手足の骨格形態の進化に対する運動量の役割を示唆する結果となった。胚期や胎児期に手足の運動量が抑制されるような自然環境におかれている生物において、骨格形態に影響が生じている可能性も十分に考えられる。本研究は、動物の形態の進化に環境要因による影響を受けやすい胚や胎児の運動量が関係していることを示唆する、画期的なものだと言える。
【用語解説】
(1)メカノストレス:組織や細胞にかかる物理的な力で、筋肉の収縮をはじめ、さまざまな力学的要因から生じる。この力は骨の発生や成長を含め、さまざまな組織の発達に重要な役割を果たす。
(2)体節:発生中の脊椎動物の胚でみられるブロック状の構造であり、筋肉、骨、真皮など、体の主要な組織に発達する細胞が含まれる。通常、手や足の筋肉は体節由来である。
(3)側板中胚葉:胚の外側に位置する中胚葉の一部で、手足の原基や体壁、心臓、血管などを形成する。
(4)細胞死:細胞が死ぬ現象であり、発生過程や組織の維持において重要な役割を果たす。
【論文情報】
掲載誌:Nature Communications
論文タイトル:Immobilization secondary to cell death of muscle precursors with a dual transcriptional signature contributes to the emu wing skeletal pattern
著者:Eriko Tsuboi?, Satomi F Ono?, Ingrid Rosenburg Cordeiro?, Reiko Yu, Toru Kawanishi, Makoto Koizumi, Shuji Shigenobu, Guojun Sheng, Masataka Okabe, and Mikiko Tanaka
?These authors contributed equally to this work.
DOI:10.1038/s41467-024-52203-x
【詳細】 プレスリリース(PDF988KB)
お問い合わせ
熊本大学総務部総務課広報戦略室
Tel:096-342-3269 Fax:096-342-3110
E-mail:sos-koho※jimu.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)