雄性不妊にかかわる新規の遺伝子を発見

【ポイント】

  • 精子が作られる際に減数分裂の終了プロセスのスイッチ役として働く遺伝子「ZEP541」を特定しました。
  • ZFP541遺伝子に障害が起きると精子が作られず不妊となることを明らかにしました。
  • ZFP541は減数分裂関連遺伝子の発現の不活性化に関わる酵素を呼び寄せて、DNAの上で遺伝子活性状態の標識として働く化合物を消去することにより、減数分裂を終了させるというメカニズムを見出しました。

【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所の石黒啓一郎教授、高田(堀澤)幸助教のグループは、精子形成において減数分裂のプログラムの終結を制御する新しい遺伝子を発見しました。これまで、精子が作られる際に、減数分裂のプログラムに関わる遺伝子の発現を不活性化させる仕組みの詳細は明らかになっていなかったため、今後の無精子症や精子形成不全を示す不妊症の原因解明など生殖医療の進展につながる可能性があります。

 本研究成果は、令和36月1日(火)午後6時(日本時間)に、世界的権威のある英国Springer Nature社が刊行する科学学術誌「Nature communications」のオンライン版に掲載されました。本研究は文部科学省 科学研究費助成事業 新学術領域研究(非ゲノム情報複製)の支援を受けて、カリフォルニア大学Davis校、大阪大学、慶應大学、熊本大学大学院生命科学研究部産科婦人科学講座、同大学生命資源研究?支援センターとの共同で実施したものです。

【展開】

 今回の成果はマウスを用いて検証されたものですが、ZFP541はヒトにも存在することがわかっています。ヒトに見られる不妊症は原因が不明とされる症例が多いことが知られていますが、今回の発見は、特に精子の形成不全を示す不妊症の病態解明に資することが期待されます。また、近年の晩婚化傾向や高齢出産などの社会的背景からも、将来的には減数分裂のクオリティを担保する技術開発の応用へと発展することが期待されます。MEIOSINの指令下で働くことが予想される他の機能未解明の遺伝子の働きについてはまだ十分に解明されていません。今後は卵子?精子の形成過程におけるこれら他の遺伝子の働きも同時に解明することにより、生殖医療に大いに貢献することが期待されます。


【論文情報】

  • 論文名:Meiosis-specific ZFP541 repressor complex promotes developmental progression of meiotic prophase towards completion during mouse spermatogenesis
  • 著者:Horisawa-Takada Y, Kodera C, Takemoto K, Sakashita A, Horisawa K, Maeda R, Usuki S, Fujimura S, Tani N, Matsuura K, Shimada R, Akiyama T, Suzuki A, Niwa H, Tachibana M, Ohba T, Katabuchi H, Namekawa S, Araki K, Ishiguro K
  • 掲載誌:Nature Communications
  • DOI:10.1038/s41467-021-23378-4


【詳細】 プレスリリース(PDF748KB)

お問い合わせ

熊本大学発生医学研究所
染色体制御分野
担当:石黒啓一郎 福田恵 
電話:096-373-6606
E-mail:ishiguro※kumamoto-u.ac.jp

(※を@に置き換えてください)