アレルギー性皮膚炎を悪化させる樹状細胞集団を発見~ロイコトリエンB4受容体を発現する樹状細胞を標的にした治療法の開発へ~

【ポイント】

● 生理活性脂質ロイコトリエンB4の受容体BLT1を発現する樹状細胞集団を発見

● BLT1を発現する樹状細胞集団は、炎症部位に留まり多くのIL-12を産生し、T細胞を炎症性のTh1細胞へ分化誘導することで皮膚炎を増悪させる

● アレルギー性皮膚炎の新規予防?治療法につながる研究成果

【概要説明】

 順天堂大学大学院医学研究科 生化学?細胞機能制御学の横溝岳彦 教授、熊本大学発生医学研究所 古賀友紹 助教(順天堂大学 非常勤講師)らの研究グループは、九州大学、大阪大学との共同研究により、生理活性脂質ロイコトリエンB4 *1の受容体BLT1を発現し、アレルギー性皮膚炎を悪化させる樹状細胞*2集団(BLT1hi DC)の同定に成功しました。また、この樹状細胞集団が、一般的な樹状細胞とは異なり、リンパ節に移行せずに炎症部位に留まり、T細胞を炎症性のTh1細胞へと分化させて、接触性皮膚炎の症状を増悪させることを明らかにしました。この研究結果は、アレルギー性皮膚炎などの新規予防?治療法の開発につながる成果です本研究は、免疫学の国際誌 Cellular & Molecular Immunology オンライン版 (2020年10月9日) に発表されました。

【展開】

 本研究は、これまで知られていなかった新規樹状細胞集団を同定した点で意義があります。このBLT1hi DCは炎症部位に留まって大量のIL-12を産生し、末梢におけるTh1分化を促進させます。これは局所において免疫反応を増強する働きがありますが、一方、過剰に働くとアレルギー性皮膚炎などを引き起こすと考えられます。この報告も世界で初めてになります。アレルギー性皮膚炎は世界中で患者数が多い疾患です。本研究グループが発見した新規樹状細胞集団を標的とした、アレルギー性皮膚炎の新規予防法や新規治療薬の開発が期待されます。

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【用語解説】

*1 生理活性脂質ロイコトリエンB4:  ロイコトリエンB4は生体膜から切り出されたアラキドン酸から産生される特殊 な“あぶら”です。これは細胞膜上の受容体BLT1に結合?作用し、多様な生理活性を発揮します。BLT1は、 本研究の責任者である横溝岳彦教授により同定された分子で、炎症?免疫反応を促進することがわかってきています。さらに近年、X線構造解析にも成功したことから、創薬標的として注目されています。

*2 樹状細胞(DC) : 免疫応答の司令塔となる細胞。樹状細胞は、皮膚などの外界と接する末梢組織で抗原に暴露され、近傍のリンパ節に移行し、T細胞に抗原提示を行い分化?増殖を誘導します。分化したT細胞は炎症部位へと移行し、抗原の排除を行います。一方で樹状細胞は、大量のサイトカインを産生し、T細胞の特異的な分化(Th1、Th2、Th17など)を促進します。

【論文情報】

論文名:Expression of leukotriene B4 receptor 1 defines functionally distinct dendritic cells that control allergic skin inflammation(ロイコトリエンB4第1受容体は機能的に異なる樹状細胞を規定し、アレルギー性皮膚炎を制御する。)
著者:Tomoaki Koga (1, 2), Fumiyuki Sasaki (1), Kazuko Saeki (1), Soken Tsuchiya (3), Toshiaki Okuno (1), Mai Ohba (1), Takako Ichiki (1), Satoshi Iwamoto (1), Hirotsugu Uzawa (1), Keiko Kitajima (4), Chikara Meno (4), Eri Nakamura (5), Norihiro Tada (5), Junichi Kikuta (6), Masaru Ishii (6), Yoshinori Fukui (7), Yukihiko Sugimoto (3), Mitsuyoshi Nakao (2), Takehiko Yokomizo (1)

著者(日本語表記): 古賀友紹(1,2), 佐々木文之(1), 佐伯和子(1), 土屋創建(3), 奥野利明(1), 大塲麻衣(1), 市木貴子(1), 岩本怜(1), 鵜澤博嗣(1), 北島桂子(4), 目野主税(4), 中村衣里(5), 多田昇弘(5), 菊田順一(6), 石井優(6), 福井宣規(7), 杉本幸彦(3), 中尾光善(2), 横溝岳彦(1)

所属: (1)順天堂大学生化学第一講座、(2)熊本大学発生医学研究所 発生制御部門 細胞医学分野、 (3)熊本大学大学院生命科学研究部 薬学生化学分野、(4)九州大学発生再生医学分野、(5)順天堂大学遺伝子解析モデル部門、(6)大阪大学免疫細胞生物学分野、(7)九州大学生体防御医学研究所免疫遺伝学分野
掲載誌:Cellular & Molecular Immunology
DOI:https://doi.org/10.1038/s41423-020-00559-7

URL:https://www.nature.com/articles/s41423-020-00559-7

【詳細】

プレスリリース(PDF739KB)

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