ヒトT細胞白血病ウイルス持続感染の新たな仕組みを解明~難治性白血病の予防、分子標的治療に向けて~
【概要説明】
●熊本大学大学院先導機構?国際先端医学研究機構?エイズ学研究センターの佐藤賢文准教授、英国インペリアル大学Charles RM Bangham教授、熊本大学発生医学研究所中尾光善教授らの研究グループは、成人T細胞白血病
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の原因ウイルスであり、我が国にも九州沖縄地方を中心に約100万の感染者が存在するヒト白血病ウイルス1型(human T-cell leukemia virus type 1, HTLV-1)の持続感染における新たなメカニズムを解明しました。
●HTLV-1は、母子感染するレトロウイルスで、数千年前からヒトと共存してきたウイルスです。感染者の大部分は病気を起こさない無症候性感染者ですが、一部の感染者で白血病や慢性炎症性疾患を引き起こす病原性を持つ事が知られています。レトロウイルス感染の特徴は、ヒトが元々持っているDNA
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に外からのウイルスDNAが組み込まれて一体化し、簡単には見分けが付かなくなることにあります。そのため、ヒトのDNAに組み込まれたウイルスDNAは、ヒトの免疫や抗レトロウイルス薬から逃れる事が出来るようになり、感染者体内からのウイルス排除を目指した治療の大きな障壁となっています。熊本大学は1980年代のウイルス発見当時から世界のHTLV-1研究に貢献してきました。
●今回の研究で、CTCFといわれる細胞由来のタンパク質がヒトのDNAと一体化したHTLV-1のウイルスDNAに直接結合し、持続感染を促進するようにウイルスDNAの働き方を調節している事が明らかとなりました。もともとCTCFという分子は、ヒトのDNAを立体的に折りたたんで多くの遺伝子の働き方を決める機能があり、私たちの生命活動に欠かせないタンパク質であることが知られています。つまりHTLV-1というウイルスは、宿主であるヒトの免疫監視機構から逃れる手段として、ヒトのDNAと一体化するだけでなく、細胞がもともと持っている「DNAを折りたたむ仕組み」も利用することで、感染者体内で巧妙に生き延びていると考えられます。
●本研究はそのHTLV-1の持続潜伏感染の重要なメカニズムを明らかにするものであり、今後更なる研究の進展によって、現在難治性白血病である成人T細胞白血病の予防や分子標的治療
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に繋がる成果と考えられます。
本研究は、文部科学省テニュアトラック普及?定着事業、文部科学省科学研究費補助金、日本医療研究開発機構(AMED)、戦略的創造研究推進事業(CREST)の支援を受けて行われました。本研究成果は、
科学雑誌「米国科学アカデミー紀要 Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America」オンライン版
にアメリカ東部時間の2月29日(月)午後3:00【日本時間3月1日(火)午前5時】に掲載されました。
【論文名】
The retrovirus HTLV-1 inserts an ectopic CTCF-binding site into the human genome
【著者名】
Yorifumi Satou*, Paola Miyazato, Ko Ishihara, Hiroko Yaguchi, Anat Melamed, Michi Miura, Asami Fukuda, Kisato Nosaka, Takehisa Watanabe, Aileen Rowan, Mitsuyoshi Nakao, and Charles R. M. Bangham*
【掲載雑誌】
Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America
【用語解説】
※1 成人T細胞白血病:
レトロウイルスであるHTLV-1の感染が原因で起こる血液がん。HTLV-1感染者の大部分は発症せず、生涯発症率は3?5%と言われているが、発症してしまうと予後が極めて悪い難治性の病気。
※2 DNA:デオキシリボ核酸
2重のらせん構造を持つ私たちの遺伝情報を担う細胞内物質。0.02mmという小さな細胞の中に約2mのヒトDNAがコンパクトに収められている。
※3 分子標的治療:
病気に関わる特定の分子を標的とし、その分子を特異的に抑えたりすることによる治療法。
【詳細】
プレスリリース本文
(PDF 194KB)
担当:准教授 佐藤賢文(さとうよりふみ)
電話:096-373-6830
(※を@に置き換えてください)