自然発症型糖尿病モデルマウスの作製に成功ー膵臓再生医療の新しい移植モデル動物として期待ー

【ポイント】

  • インスリン2タンパク質の104番目のアミノ酸残基を欠失
  • 重度免疫不全モデルマウスBRJマウスに遺伝子変異導入
  • インスリン治療により正常な血糖値に回復

【概要説明】

 東京工業大学 生命理工学院 生命理工学系の粂昭苑教授、坂野大介助教、井上愛里大学院生(博士後期課程1年)らの研究グループは、熊本大学 生命資源研究?支援センターの荒木喜美教授、同大 ヒトレトロウイルス学共同研究センターの岡田誠治教授、順天堂大学大学院医学系研究科の小池正人教授らとの共同研究により、マウスのインスリン2タンパク質へのQ104del変異導入(用語1)による自然発症型の糖尿病モデルマウスを作製しました。作製した糖尿病モデルマウスは遺伝的な変異により発症するため、従来の薬剤投与による糖尿病モデルよりも安定に糖尿病を発症することができます。そして、重度免疫不全モデルマウス(用語2)の系統に遺伝子変異を導入したため、ヒトiPS細胞やES細胞から作成された膵臓(すいぞう)細胞の糖尿病治療効果を評価するための細胞移植実験への活用が期待されます。

 この成果は7月22日付で英国の科学誌「Scientific Reports(サイエンティフック?リポーツ)」にオンライン掲載されました。

 

【今後の展開】

 ヒトiPS細胞から血糖値に応じてインスリンを分泌できる膵臓細胞(iPS-β細胞)を高効率に作り出すことが、世界的に可能になりつつあります。今後、これらのiPS-β細胞を再生医療に利用し、長期間の治療効果を発揮できるかどうかを判断するためKumaマウスへの細胞移植実験を進めることにしています。

【用語解説】

(1)Q104del変異導入:104番目のアミノ酸のグルタミンを欠失した変異を導入すること。

(2)重度免疫不全モデルマウス:自然変異マウスと遺伝子改変マウスを交配することで、免疫能力をほぼなくしたマウス。異種の細胞に対する拒絶反応をほとんど起こさないため、人間の造血細胞や免疫細胞を直接導入するヒト化マウスの作出に利用されます。

【論文情報】
● 論文名:Insulin2 Q104del (Kuma) Mutant Mice Develop Diabetes with Dominant Inheritance

● 著者名:Daisuke Sakano, Airi Inoue, Takayuki Enomoto, Mai Imasaka, Seiji Okada, Mutsumi Yokota, Masato Koike, Kimi Araki, Shoen Kume

● 掲載雑誌:Scientific Reports

● DOI:10.1038/s41598-020-68987-z

【詳細】 プレスリリース(PDF 611KB)

お問い合わせ??

熊本大学生命資源研究?支援センター 疾患モデル分野

担当:教授 荒木 喜美(あらき きみ)
電話:096-373-6597
e-mail: arakimi※gpo.kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)