精子形成におけるDNAメチル化の役割を解明

【ポイント】

  • DNAメチル化の維持に必須な二つのタンパク質「NP95」と「DNMT1」が、雄の生殖細胞における減数分裂においても必須であることを明らかにしました。
  • Np95及びDnmt1遺伝子を欠損させた雄マウスの生殖細胞は、減数分裂期において、精子形成不全を示すことが分かりました。
  • 本研究から、「NP95」及び「DNMT1」によるDNAメチル化の維持機構は、遺伝情報やエピジェネティックな情報を確実に子孫に伝える役割を果たしていることが示唆されました。

【概要説明】

 熊本大学発生医学研究所の高田幸助教、横浜市立大学医学部の大保和之教授、理化学研究所生命医科学研究センター免疫器官形成研究チームの古関明彦チームリーダーらの共同研究グループは、タンパク質「NP95」と「DNMT1」を介したDNAメチル化1の維持が精子形成に重要な役割を果たしていることを明らかにしました。これまで、減数分裂期に起こる相同染色体の対合2への DNAメチル化の影響は完全には解明されていなかったため、今後の生殖医療発展の礎となることが期待されます。
 本研究成果は、令和3年5月17日20時(日本時間)に、英国科学雑誌「Development」に掲載されます。
 本研究は、文部科学省科学研究費助成事業、国立研究開発法人日本医療研究開発機構AMED-CREST「エピゲノム研究に基づく診断?治療へ向けた新技術の創出」などの支援を受けて実施したものです。

【展開】

 不妊症は原因不明とされる症例が多いことが知られています。本研究の結果はマウスを用いて得られたものですが、精子形成不全の原因の一端を解明できたことにより、ヒトの不妊症の病態解明にもつながると考えられます。
 また、精子の品質管理に重要な機構が新たに明らかになったことから、生殖医療における技術開発の発展に貢献することが期待できます。


【用語解説】

※1. DNAメチル化

DNA 鎖の塩基にメチル基を付加する化学修飾。正常な発生に必須の機構であり、クロマチンの安定性、遺伝子刷り込み、X染色体の不活化や発がんなどに関与している。本研究の対象である「NP95」と「DNMT1」は、CpGという配列のC(シトシン)のメチル化維持に関与している。

?※2. 相同染色体の対合

ヒトでは一つの細胞に46本の染色体、マウスでは40本の染色体(うち2本は性染色体)が存在する。性染色体を除く22本ずつ (マウスでは19本ずつ) の染色体は塩基配列がほとんど同じで、これをお互いに相同染色体という。相同染色体は、減数分裂の際に、互いに相手を認識して物理的に接着する(対合する)ことで、遺伝的多様性を生み出している。


【論文情報】


【詳細】 プレスリリース(PDF446KB)

お問い合わせ

熊本大学発生医学研究所 染色体制御分野
担当:助教 高田 幸
電話:096-373-6607
E-mail:yuki-t※kumamoto-u.ac.jp

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