細菌感染が貧血や白血病を引き起こす可能性:細菌感染が造血幹細胞に与えるストレスを解明

細菌感染時には、免疫系が反応して体内で感染がさらに拡散するのを防いだり、最終的には感染を抑えたりする役割を担います。その際に、免疫を担う免疫細胞が防御線として働くと考えられていましたが、最近の研究から血液を造る非免疫細胞である造血幹細胞も感染に対して反応することが明らかになりつつあります。
熊本大学国際先端医学研究機構の滝澤仁特別招聘教授らは、チューリッヒ大学病院血液内科のグループと国際共同研究を行い、細菌感染が骨髄にいる造血幹細胞を活性化し、強制的に増殖を誘導するストレスを与えて血液を産生する能力を著しく低下させることを見出しました。今回の発見は、細菌感染が引き金となり造血不良や白血病化が起きる可能性を示しており、それらの血液疾患に対する新たな予防法を考える上で重要な知見となります。

今回の研究では、免疫反応を担当しない造血幹細胞も細菌感染に対して反応し、血液をつくる能力に不具合が生じることが分かりました。これは、細菌感染が起こると造血幹細胞の細胞分裂が強制的に誘導され、そのストレスが蓄積した結果として貧血などの造血不良や白血病などの癌化を引き起こす可能性を示唆しています。しかし、その反応を薬で阻害できれば、病原菌に対する免疫反応を弱めることなく血液?免疫細胞の産生を維持することができ、感染防御と血液疾患の予防を同時に行えることが可能になることが期待されます。

本研究の成果は「Cell Stem Cell」に日本時間の平成29年7月21日午前1時にオンライン掲載されました。
http://www.cell.com/cell-stem-cell/fulltext/S1934-5909(17)30239-4
また、研究内容のイラストが表紙にも選ばれました。


【論文名】
Pathogen-induced TLR4-TRIF innate immune signaling in hematopoietic stem cells promotes proliferation but reduces competitive fitness
病原菌によって誘導されるTLR4-TRIF自然免疫シグナルは造血幹細胞の増殖を促進するが、競合的適合性を低下させる

【著者名と所属】
Hitoshi Takizawa 1,2,* , Kristin Fritsch 1 , Larisa V. Kovtonyuk 1 , Yasuyuki Saito 1 , Chakradhar Yakkala 1 , Kurt Jacobs 3 , Akshay K. Ahuja 3 , Massimo Lopes 3 , Annika Hausmann 4 , Wolf-Dietrich Hardt 4 , ?lvaro Gomariz 1 , César Nombela-Arrieta 1 and Markus G. Manz 1,*

1 Hematology, University Hospital Zurich and University of Zurich, CH8091 Zurich, Switzerland
2 International Research Center for Medical Sciences, Kumamoto University, Kumamoto 860-0811, Japan
3 Institute of Molecular Cancer Research, University of Zurich, CH8057 Zurich, Switzerland
4 Institute of Microbiology, Department of Biology, ETH Zurich, CH8093 Zurich, Switzerland

*correspondence

【掲載雑誌】
Cell Stem Cell

【DOI】
http://dx.doi.org/10.1016/j.stem.2017.06.013

【詳細】
プレスリリース本文 (PDF 222KB)

お問い合わせ
熊本大学国際先端医学研究機構
担当: 滝澤 仁
電話: 096-373-6879
e-mail: htakizawa※kumamoto-u.ac.jp
(※を@に置き換えてください)