トロンボポエチン欠損下における造血幹細胞維持現象とその機構を解明

【ポイント】

 サイトカインのThrombopoietin(Thpo)は成人期の造血幹細胞の維持に不可欠であるが、Thpoに依存せずに生存、維持される造血幹細胞の存在とその機構を解析しました。

  1. Thpo 欠損は造血幹細胞の静止期性の低下、細胞周期進行の障害、ミトコンドリア機能障害及びアポトーシス亢進を引き起こします。
  2. Thpo遺伝子欠損マウスにおけるThpo受容体作動薬を連続投与したところ、造血幹細胞の数の増幅とともに静止性の誘導が見られました。
  3. 造血幹細胞は機能やマーカーの多様性が知られているが、Thpo欠損下でも生存できる造血幹細胞のサブグループがあることが示唆されました。

【概要説明】

 東京女子医科大学?顕微解剖形態形成分野の石津綾子教授らのグループは、シンガポール国立大学がん科学研究所および熊本大学国際先端医学研究機構の須田年生教授らの研究グループと共同で、造血幹細胞の幹細胞能制御の新たなメカニズムを解明しました。本研究成果は2021年3月3日に米国血液学会American Society of Hematology (ASH)発行の雑誌である「Blood」のオンライン版で公開されました。

【今後の展開】

 近年、HSCは遺伝子発現、タンパク発現などにおいて多様性(heterogeneity)を有し、分化?増殖?維持機能も異なった集団からできていると考えられています。本研究では、Thpo反応性においてのHSC Heterogeneityを明確にし、Thpo反応性がHSCの静止状態の維持とそれにかかわる代謝状態を制御することを明確にし報告しました。治療目的のために生体外でのHSC培養、維持法は検証されているものの、幹細胞能の高いHSCを生体内外で維持する方法は確立されていません。本研究をさらに発展させ、治療応用を目的とした生体内外のHSC増幅と維持の新規方法を開拓し、効率化を目指していきたいと考えています。また、Thpo作動薬の使用は既存治療で効果不十分な再生不良性貧血患者の適応として認可されており、今後、HSCThpo反応性のさらなる解明は造血疾患の病態解明と治療開発につながると思われます。

【論文情報】

  • 論文名:Prolonged maintenance of hematopoietic stem cells that escape from Thrombopoietin deprivation
  • 掲載誌:Blood
  • DOI:https://doi.org/10.1182/blood.2020005517
  • 本成果を得るに当たり協働した研究者:Toshio Suda, シンガポール国立大学がん科学研究所, 熊本大学国際先端医学研究機構

【詳細】
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