損傷した筋肉が筋幹細胞を活性化させることを発見~筋疾患の病態解明や創薬開発に期待~

【ポイント】

  • 肉離れ等で損傷した筋肉を再生するためには,筋幹細胞の活性化,増殖,筋分化という3つのステップが必要です。しかし,最初のステップである筋幹細胞の活性化のメカニズムについては,ほとんどわかっていませんでした。
  • 本研究グループは,損傷した筋肉から漏出する成分が筋幹細胞を活性化させるといった,極めて合理的な組織再生の仕組みがあることを発見しました。
  • 本研究では,損傷した筋肉から漏出する成分を「損傷筋線維由来因子(DMDFs)」と命名しました。今後,さまざまなDMDFsの多様な機能を解明することで,筋疾患の病態解明や創薬開発への展開が期待されます。

【概要説明】

 私たちは激しい運動等で筋肉が損傷しても再生する力を備えています。この再生には筋線維の周囲に存在するサテライト細胞と呼ばれる筋幹細胞が欠かせません。サテライト細胞は通常眠った状態(休止期)で存在していますが,筋がダメージを受けて損傷すると速やかに,目覚め(活性化),増殖を繰り返し,筋分化することで,損傷した筋線維を再生します。つまり,筋線維が損傷して再生するまでには,サテライト細胞の活性化,増殖,筋分化という3つのステップが必要になります。しかし,最初のステップである活性化はどのように起こるのか,そのメカニズムについてはよくわかっていませんでした。

 今回,熊本大学 発生医学研究所 筋発生再生分野の土屋吉史 研究員(日本学術振興会PD特別研究員)は,小野悠介 准教授,長崎大学の増本博司 講師とともに,培養系での筋損傷モデルを構築し,損傷した筋線維から漏出する成分がサテライト細胞を活性化させることを見出しました。本研究グループはこのような漏出成分を「損傷筋線維由来因子(DMDFs:Damaged myofiber-derived factors)」と命名し,DMDFsの質量分析解析を行い,サテライト細胞を活性化させるタンパク質の同定を試みました。その結果,DMDFsとして同定された代謝酵素は,休止期のサテライト細胞を速やかに活性化させ,筋損傷からの再生を加速させる働きがあることを見出しました。本研究から,損傷した筋肉そのものがサテライト細胞を活性化させるといった,極めて合理的で効率的な再生メカニズムが存在することが明らかになりました。DMDFsは多種多様な機能があると予想されるため,今後,DMDFsのさらなる機能解明を進め,筋疾患の病態解明や創薬開発へ展開していきます。

 本研究成果は,国際幹細胞学会の学会誌Stem Cell Reportsのオンライン版に令和2年9月4日 (日本時間) に掲載されました。

 本研究は,AMED(再生医療実現拠点ネットワークプログラム幹細胞?再生医学イノベーション創出プログラム,難治性疾患実用化研究事業),JSPS科研費,武田科学振興財団の助成を受けて実施されました。

【用語解説】
※サテライト細胞:骨格筋の組織幹細胞。骨格筋は筋線維の束で構成されており,サテライト細胞は筋線維と基底膜の間に位置している。サテライト細胞は強力な筋再生能をもつため,筋疾患治療への応用が期待されている。

【論文情報】
論文名:Damaged myofiber-derived metabolic enzymes act as activators of muscle satellite cells(損傷筋線維由来代謝酵素は筋サテライト細胞の活性化因子として働く)

著者名:土屋吉史1,2, 北嶋康雄1,2,増本博司3, 小野悠介1,2,4*

所属:1)熊本大学 発生医学研究所 筋発生再生分野

   2)長崎大学 大学院医歯薬学総合研究科

   3)長崎大学 医学部共同利用研究センター

   4)熊本大学 大学院生命科学研究部附属健康長寿代謝制御研究センター

   *責任著者

掲載雑誌:Stem Cell Reports

DOI:10.1016/j.stemcr.2020.08.002

【詳細】

プレスリリース(PDF983KB)

お問い合わせ??

熊本大学発生医学研究所 筋発生再生分野

担当:准教授 小野 悠介
電話:096-373-6601
e-mail:ono-y※kumamoto-u.ac.jp

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