世界で誰もやっていない成果で「社会につながる」研究を目指す

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平成29年11月、抗菌作用を持つ銀ナノ粒子を金でコーティングすることで、抗菌作用をコントロールする新しい技術が発表されました。世界初となるこの技術を発表した新留教授にお話を伺いました。

「研究がすすんでいない」から始まったナノ材料研究

健児くん(以下◆):今回開発された技術について、教えてください!
新留:今回発表したのは、ある企業が開発した特殊な三角形の銀ナノ粒子と、私たちがもっている、パルスレーザー光を金ナノ粒子にあてて形を変える、という技術を融合したことで開発した技術です。銀ナノ粒子には高い抗菌作用があります。細菌の増殖の抑制や、薬剤耐性がある菌への抗菌作用も高いので、抗生物質が効かない感染症の原因菌にも効果が期待されています。しかし、銀ナノ粒子は不安定で、抗菌作用がすぐに失われてしまう、という欠点もあるんです。そこで、銀ナノ粒子を金でコーティングしました。これに、パルスレーザー光を照射することで、三角形の銀ナノ粒子が丸くなり、金のコーティングに僅かな隙間ができます。そこから銀イオンが放出され、抗菌作用が発揮されることがわかったんです。この技術を使えば、銀ナノ粒子を投与した後、特定の部位にむけて体外からパルスレーザー光を照射することで、狙ったところで抗菌作用を発揮させることができるようになります。ナノ粒子は細胞に取り込まれやすい性質を持っているので、結核やレジオネラなど、抗生物質が効きにくい、細胞内寄生菌にも効果があるのではないかと期待しています。このような、光を使って抗菌活性のオンオフをコントロールできる、という技術は、世界で初めてでした。

◆:すごいですね! いつ頃から、このような研究をされていたんですか?
新留:薬が効果的に働くように体内での動きや分布などをコントロールする仕組みを「ドラッグデリバリーシステム(DDS)」といいます。DDSに関する研究はずっとやっており、最初は、ペプチドやポリマーなどを使った遺伝子デリバリーを研究していました。遺伝子デリバリーとは、遺伝子治療の際に使われるもので、DNAを細胞内に運ぶことで、遺伝病やガンなどの完治を目指す、今注目されている治療法の一つです。効率的にデリバリーする仕組みはないか、複雑な機能をコントロールする方法はないか、試行錯誤していました。そんなとき、当時九州大学にいた兄が、光エネルギーを吸収する性質をもった金ナノ粒子を紹介してくれたんです。DDSに活用できないか、という相談でした。やってみると、金ナノ粒子を遺伝子や薬でコーティングし、光を照射すると、金ナノ粒子が変形して、遺伝子や薬を放出し、効果を発揮できることがわかったんです。世界でも、金属を活用したDDSについて研究している人があまりいない、ということにも気づき、金ナノ粒子を活用したDDSについての研究にはまりました。今回の発見も、これらの研究の積み重ねでできたものなんです。
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自然現象に向かう理学と人へ向かう工学の両方の視点で考える

◆:先生は理学部のご出身だそうですね。
新留:高校のときは生物が得意でした。受験のときに「自分が何をしたいか」を考えて、生物化学がある鹿児島大学の理学部に進学したんです。大学では化学的な見方で生物を理解することを学びました。大学卒業後、九州大学での大学院生時代は、細胞はなぜ細胞として生きているかというような基礎研究をしていました。その後、長崎大学の工学部へ就職。研究してきたことをどのように社会に活かしていくか、応用研究に携わることになりました。理学部と工学部の違いは、理学部は自然現象に向いていて「なぜか」が研究のきっかけになるけれど、工学部は「人に向かう」ことが重要で、社会の役に立つものを作ることを目標にしている、という点です。最初は戸惑いました。でも、両方のことがわかっているからこそ、今の立ち位置もできてきたのかな、とも思います。化学的なこともわかるし、再生医療や細胞の分化誘導も理解できます。理学、医学、工学、薬学。いろいろな世界の人と話ができるようになりました。今も、医学部や薬学部の先生たちと協力していつも一緒にやっています。こちらにない道具を使わせてもらったり、動物実験をさせてもらったり、逆に、工学部の装置を使っていただいたり。うまく協力することで、双方の良さが融合し、面白い研究ができるようになりました。
◆:先生にとって研究の魅力とは?
新留:誰も世界でやっていなかったことを見つけたときです! 学生が持ってきたデータを見て、狙った通りの結果が出てきたときは、思わず満面の笑みになって、学生と抱き合って喜ぶこともありますよ。「いいぞ!」って。この瞬間は本当にたまらないですね。狙った結果と正反対の結果が出ても、興奮します。こんなことで楽しめるのは研究職ならでは。やめられないな、と思います。だからこそ、自分ならではの視点を大切にするようにしています。薬のことだからといって、薬学や医学と同じ視点で考えても仕方ありません。工学ならではの視点で、強みを活かした研究をやっていかないと。工学のテクニックを使って、オリジナルの研究をやっていきたいですね。
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その研究に学問はあるか?その学問は社会に繋がるか?

◆:今後はどのような研究を行う予定ですか?
新留:まずは、これまでのことを発展させる形で、金属ナノ材料を活用して、薬のデリバリーや活性を、体外からコントロールする研究を進めたいと思っています。金属ナノ粒子にも、銀ナノ粒子、金ナノ粒子などがあります。金ナノ粒子にも棒状や星型などいろいろな形があり、それぞれに性質が変わってきます。体外からのコントロール方法にも、光以外にも、磁場、超音波などがあると考えています。いろいろな素材や手法を組み合わせて、効率的で安全な方法にたどりつきたいと思っています。私が研究するときに考えるのは、「その研究に学問はあるか? その学問は社会に繋がるか?」ということ。学問とは自然現象の原則原理のこと。こういう性質をもっているからこういう機能がだせる、などを研究することです。純粋な学問は何に利用できるか、すぐには見えないかもしれません。ですが、積み上がっていくと「あ、これに使える」というときがくるんです。直接社会に繋がる研究は、企業でもやれます。でも、繋がるかどうかわからないところにお金を使うことは難しいでしょう。大学の研究の役割は、そんな応用の種になる研究をすることではないでしょうか。

◆:学生のみなさんに一言お願いします!
新留:いろいろな大学を見てきましたが、熊大には熊大ならではの良さがあります。例えば、工学部の運動会や遠歩大会。ほかの大学にはこんな行事はありません。他大学の人に話したら、びっくりされますよ。学生同士、日常的に一緒に遊んでいるのも、大学周囲に住んでいる学生が多いという熊大ならではじゃないかな、と思います。当たり前だと思っているかもしれないけれど、他にはない経験ができる、恵まれた環境にあるのが熊本大学。遊びも含めて、いろいろな経験をしてもらいたいですね。
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(2018年1月11日掲載)
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