世界初!3次元の腎臓組織作製に成功

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腎臓の再生医療実現に向けて

image02.jpg 健児くん(以下:◆):先生はなぜ研究者の道を選んだのですか?
西中村:元々、研究者を目指していたわけではなくて、大学を卒業してからは4年間ほど腎臓内科医として臨床の現場にいたんですよ。腎疾患に苦しみ、進行すると人工透析になってしまう患者さんを何人も見てきて、基礎研究の道へ進もうと決めたんです。
当時、試験管の中でカエルの腎臓を作製したことを東京大学の浅島誠教授が発表されていたので、「それを哺乳類で実現して腎不全の患者さんを助けられないか」と、浅島先生の研究室に入り浸って実験しました。とはいっても腎臓を作るのは当然難しいので、最初は腎臓発生のメカニズムを解明することから始めたんです。
◆: その後、2001年に腎臓の発生に重要な役割を果たす遺伝子「Sall1」を発表されたんですね。
西中村:そうですね。試行錯誤の毎日の中で、カエルを使った遺伝子検索をひたすら続け、3年過ぎた頃にノックアウトマウスでの実験でようやく「Sall1」という遺伝子の重要性を発見したんですよ。その遺伝子が一つなくなってしまうだけで、腎臓が全く形成されないことを明らかにできた初めてのブレイクスルーの瞬間でした。次いで2006年に「Sall1」が発現する「腎臓前駆細胞」を見つけたときには、「これを誘導できれば腎臓が作れる可能性がある」と思いました。

生涯の夢を叶えた3次元の腎臓組織

image03.jpg ◆: 2013年12月に「Cell Stem Cell 」誌に発表されたマウスES細胞とヒトiPS細胞から“3次元の腎臓組織を試験管内で作製”した研究は、世界初の快挙!おめでとうございます。三つ目のブレイクスルーですね!
西中村:「Sall1」を指標として研究を進め、「糸球体と尿細管という腎臓の3次元構造は胎児期の『腎臓前駆細胞』からできている」ことを報告していましたが、「腎臓前駆細胞」がどのようなメカニズムで胎内に形成されるかは、わかっていませんでした。
今回は、「『腎臓前駆細胞』は、胎児の下半身の元になる特殊な細胞からできている」ことを発見し、実際にマウスの胎児から採取したこの細胞を用いて、「腎臓前駆細胞」を作ることに成功したんです。さらにマウスES細胞およびヒトiPS細胞から、試験管の中で「腎臓前駆細胞」を経由して、3次元の腎臓組織を作ることができました。
◆:夢が叶った瞬間!研究室の皆さんの歓喜が目に浮かぶようです。
西中村:顕微鏡で確認したときには、さすがに感極まりましたね。自分が一生かけても達成できないだろう、次の世代に託すしかないだろうと思っていた夢が現実になった瞬間でした。今回の主役である博士課程の太口敦博くんと握手しながら、何度も「ありがとう」と繰り返しました。

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研究者は、愚直であれ

image04.jpg ◆: 今回の成功には研究室の皆さんの絶えまない努力がありますね。
西中村:皆、本当によくがんばってくれました。特に太口敦博くんは、研究室に来てまもなくこのプロジェクトを託されて、数年はなかなか成果をだすことができませんでした。試行錯誤の毎日の中で、よくくじけなかったと思います。
彼なしでは今回の成果はありえなかった。発生学の教科書に記された腎臓の起源が、実はそうではないことを突き止めて、実際の発生に沿った条件を確定して、ついに腎臓の3次元構造の誘導に成功。次世代を託せる人材にようやく出会えたことが、うれしいですね。
image04_2.jpg ◆:研究者として成功するには、最前線での判断力や根性が必要ですね。
西中村:自然は私たちの想像をはるかに超えたもの。自分が想像を越えた可能性があることを忘れずに、一つ一つ愚直に試していくことが大切です。打率でいえば1打席1安打よりも、10打席3安打打てる人の方がいい。寺田寅彦が「科学者は頭が良いと同時に、頭が悪くなければならない」と言っていますが、“愚直であれ”ということですね。
現在は、より完全な3次元の腎臓作成を目指してしているところです。将来的には血管をつないで、尿を産生する機能をもった腎臓を作ることが目標です。私にとって、まだその研究をできる時間があることは、とても幸せなことです。
私にとって研究とは人生そのもの。一番好きなことを仕事にできたら素晴らしいことだと思うし、その意味でも私は幸せ者ですね。

(2014年3月31日掲載)

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