平成29年度熊本大学卒業式?修了式 式辞

t180325-1.jpg

卒業生、修了生の皆さんおめでとうございます。
本日、ここに、桜満開のもとで、ご来賓各位の御臨席を賜り、部局長、並びに教職員の皆様と共に平成29年度の卒業式?修了式を挙行し、2,436名の諸君を送り出すことができることは、熊本大学にとって大きな慶びであります。
皆さんは、熊本大学での勉学を終え、一生の中でも最も記念すべき門出の日を迎えられました。卒業や入学には晴れやかさや歓びがつきものですが、数年前に入学された時とは、また違ったものだろうと思います。それは、皆さんが数年間の大学生活の中で成長したからです。また、二年前の熊本地震を経験されたからだろうと思います。先生や友人との触れ合い、クラブ活動、あるいは学外でのボランティア活動など、二度とない学生生活を思い起こしてみてください。学内外での多くの人々との交流、これらは全て皆さんの人としての成長のためにはかけがえのないものであり、これからの人生に大きな影響を与えるに違いありません。その意味で、皆さん一人ひとりが生まれてから今日に至るまで、皆さんをずっと支え励ましてくれたご家族をはじめ、恩師、友人、先輩、後輩など周りの全ての方々に対し、皆さんと一緒に、改めて感謝とお礼を申し上げたいと思います。

皆さんが熊本大学で学んだこの数年間、日本だけでなく世界は激しく変動してきました。しかし、これからも更に大きく変わる予感がします。これからどのような分野に進まれようとも、皆さんが関わる社会は将来的に三つの大きな共通的課題を抱えていると思います。一つ目は、熊本だけでなく世界各地で起きている地震や活火山活動を考えると、地球は活動期に入っているということです。気候変動によるスーパー台風、大雨や大雪などにより、大きな災害に見舞われる確率が非常に高くなっていると思います。二つ目は、文明や宗教の衝突に加えグローバル化の反動で反グローバル、ローカリズムが台頭してきていることです。英国のEU離脱問題(ブレグジット)やトランプ大統領の米国第一主義がその代表です。三つ目に、人工知能(AI)の発展とその日常生活への応用が大きな社会変動をもたらす可能性があることです。これらに対し、私たちはどのように対処すべきでしょうか?

今年で東日本大震災から七年が経ちますが、まだまだ多くの課題が残っています。また、二年前は私たちも二度の大きな地震を経験しました。この一年も、世界各地で集中豪雨や大雪による被害が発生し、我が国も例外ではありませんでした。エネルギー問題、水の確保、感染症等も今日世界の大きな課題となっています。日本では、原子力発電所の再稼働を巡って、依然として様々な議論が展開されていますし、廃炉に関しても先が見えない暗澹とした状態です。私たちは、直面しているこれらの課題を世界的な視野にたって解決していかなければなりません。社会の財産としての皆さんの叡智は、様々な形で求められるところです。特に大きな地震と被害を経験した私たちは、個人のレベルでも、地域のレベルでも、国レベルでも、そして世界レベルでも、積極的な災害に対する心構えが必要だと思います。

中東の混乱、テロ、シリアの難民問題など社会不安も増大しています。中国の台頭、英国のEU離脱問題(ブレグジット)やトランプ大統領の米国第一主義の影響で世界経済もなかなか安定しない状況です。一度進んだグローバル化を引き戻すことは愚策だと思いますし、日本、熊本、特に日本の大学はさらに世界に門戸を広げる必要があります。ここで大切なことは、本学のHIGOプログラムで掲げている「グローカル」な人材育成、あるいは本学が目指している「地域から世界に輝く研究拠点大学」の精神をこれからも持ち続けていただきたいということです。様々な分野でローカルな問題を解決していくことは、遍く世界にも通用する普遍的な解決策にも繋がるでしょう。

数年前、英国オックスフォード大学の研究者があと十年で「消える職業」「なくなる仕事」を発表しました。銀行の融資や保険の審査担当者、簿記?会計?監査の担当者、電話のオペレーター、レジ係、レストランの案内係、ホテルの受付係、測定作業員、メガネ?コンタクトレンズの技術者、義歯製作技術者、測量技術者、地図作製技術者、建設機器のオペレーター、訪問販売員などなど実に702の職種が挙げられています。この論文では、これらの仕事はコンピューターに取って代わられる確率が90%以上と算定されています。もしAIがさらに活用されれば、生活が便利になる代わりに、多くの仕事がなくなる可能性があります。私たちは将来、AIを使いこなす側に立たねばなりません。AIに使われるようなことがあってはならないと思います。また、AIやコンピューターで出来ない方向性を様々な分野で打ち出し、生き残らなければなりません。

最近、工学の分野でデザインという考え方が主唱されています。問題解決のための設計と、製作、販売戦略までを一体的に美的に行うことですが、基本的にデザインと言うものが「具体的な問題解決のため思考?概念の組み立てを行い、それを様々な媒体で表現する」ということを意味することから敷衍したものだと思います。必ずしも答えが一つでない課題に対して、様々な知識?技術の集積を応用し、実現可能な解を見つけ出していく「デザイン能力」が、皆さんにこれから特に求められます。これは、AIやコンピューターではできないことです。具体的には①応用可能な新しい材料を生み出す知的活動②病める人達のための救済策③企業等での新しいアイデアをもとにした販売計画④国家や自治体のための社会福祉政策の考察などと言われています。

「ローマ人の物語」や「ギリシャ人の物語」を書いた塩野七生は「理論的に言えばウィキペディアとAIを組み合わせればローマ史もギリシャ史も書けるかも知れません。しかし実際は書けないでしょう。と言うのは、ある資料をどう読み込み、どう解釈するかと言うのは、やっぱり書く人間次第なんです。」と言っています。

大学で培った知識をもとに大胆な発想を呼び起こす叡智を最大限に発揮してください。そのためには、自由な発想?創造とそれを具現化する情熱が必要です。正に、熊本大学が掲げている「創造する森 挑戦する炎」の始まりです。

熊本大学がさらに発展するための原動力は、熊本大学に学び、熊本大学を愛する方々の世代を超えた絆の中にあると思います。母校の伝統の担い手として、キャッチフレーズの「創造する森 挑戦する炎」を胸に、積極的に母校のために力を寄せてください。熊本大学で学んだことに誇りと自信を持って、これからの人生を力強く歩んでください。
今後の皆さんのご健闘とご活躍を祈りつつ、卒業?修了に際しての心からの祝辞といたします。

平成30年3月25日
熊本大学長 原田信志

?t180325-2.jpg

お問い合わせ
経営企画本部 秘書室
096-342-3206