平成28年度熊本大学卒業式?修了式 式辞

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卒業生、修了生の皆さんおめでとうございます。本日、ここに、ご来賓各位の御臨席を賜り、部局長、並びに教職員の皆様と共に平成28年度の卒業式?修了式を挙行し、合計2,432名の諸君を送り出すことができます事は、熊本大学にとって大きな慶びであります。
皆さん方が熊本大学で学んだこの数年間、日本だけでなく世界は激しく動いて来ました。特に昨年の4月には、熊本では大きな二度の大地震に見舞われました。ほぼ1年経とうとしている今、私自身も多くのことが走馬灯のように思い起こされますが、最終学年であった皆様方には、また特別の不安や困難があったことと思います。それらを乗り越え、今日の日を迎えられました事に敬意を表するとともに、改めて心からお祝い申し上げます。発災後、1ヶ月間休講措置をとりました。しかし、その後、留学生を含むすべての学生の皆さんが元気に復学され、それまでにも増して勉学やクラブ、ボランティア活動に励まれる姿に接し、本当に嬉しく思い、我々も強く励まされました。この場を借りてあつく御礼を申し上げたいと思います。

東日本大震災でも6年が経とうとしていますが、まだまだ多くの問題が残っています。熊本では熊本城の修復をはじめ山積する問題にやっと手がつけられているような状態です。熊本大学でも工学部の一号館の建て替えは平成30年度末までかかる予定で、五高記念館に至っては修復に平成33年までかかると言われています。
皆さん方は、今日熊本大学での勉学を終え、一生の中でも最も記念すべき門出の日を迎えられました。卒業や入学には晴れやかさや歓びがつきものですが、数年前に入学された時とは、また違った気分だろうと思います。それは、皆さん方が地震の経験も含め、この数年間の大学生活の中で大きく成長されたからです。この機会に、先生や友人との触れ合い、クラブ活動、あるいは学外での活動など、おそらく二度とない学生生活をしっかり思い起こしてください。大学内外での多くの人々との交流、これらは全て皆さん方の人格形成のためには掛け替えのないものであり、これからの人生に大きな影響を与えるに違いありません。ここで、皆さん方の一人ひとりが生まれてから今日に至るまで、皆さん方をずっと支え、励ましてくれたご家族をはじめ、恩師、友人、先輩、後輩など周りの全ての方々に対し、皆さんと一緒に、改めてお礼を申し上げたいと思います。

昨年は世界各地での地震や集中豪雨による被害があり、我が国、我が熊本も例外ではありませんでした。エネルギー問題、水の確保、感染症等も今日世界の大きな課題になっています。日本では、原子力発電所の再稼働を巡って、依然として様々な議論が展開されています。廃炉に関しても先が見えない暗澹とした状態です。エネルギーの確保は、今日の世界的な課題でもあります。また水は生命(いのち)の根幹ですが、大きな災害をもたらす力も持っていることは、集中豪雨や台風、津波による被害で思い知ったところです。ブラジルを中心としてジカ熱の感染症が流行し、今年はまたインフルエンザも流行りました。現在中国ではトリインフルエンザウイルスのヒトへの感染が問題になっています。国際的な協力の下にこれらの感染症は制圧しなければならないでしょう。中東の混乱、テロ、シリア難民問題など社会不安も増大しています。英国のBrexit(EU離脱)、米国のトランプ現象は、グローバル化から自国中心主義への大きなイディオロギーの変換と反知性主義がその根底にあると言われています。様々な要因が複雑に絡み合い世界経済にも暗雲が立ち込めています。今日の我々が直面しているこれらの課題を世界的な視野の中で解決していくことが、今後益々重要になってまいります。社会の財産としての皆様の叡智が今後、様々な形で求められているところです。

それには、これまで学んできた知識により知恵への転換と理系、文系の領域を超えた発想が必要で、それによりイノベーションを起こす必要があります。ここでいうイノベーションとは、生活環境が一変する革新的な発見や考え方(思想)を言っています。
その昔、ダーウィンの進化論は、経済学者マルサスの「人口論」にヒントを受けたと言われています。人口は制限されなければ倍々に増加するけれども、生活資源、主に食糧ですが、それは直線的にしか増加しないので、生活資源は必ず不足します。その結果、人口は食糧不足、あるいは戦争や感染症によって抑制、減少され、選択されるという理論です。これが、ダーウィンがその「進化論」を打ち立てるアイデアの元となりました。
メンデルはあまり優秀でなかったようで、教師の資格試験に何度も落ちています。特に、不得意であった数学、物理学を学ぶため、ウイーン大学の物理学者ドップラーのもとへ行っています。当時、ドップラーは速度と周波数との間の数学的な関係式を発見し、それを実証するために駅で列車が通過するとき汽笛の音が変化するということで証明しようとしていました。それを見てメンデルはある現象を説明するためには実験的、数学的証明が必要であることを学んだと言われています。後に司祭として修道院生活を送っているとき、エンドウ豆の交配実験を愚鈍なほどに繰り返し、種子の形状や大きさなどの形質の変化を数学的に解析することからメンデルの法則を発見した事は皆さんもよくご存知のとおりです。遺伝形質は遺伝粒子(現在では遺伝子と呼ばれていますが)、それによって受け継がれることを提唱し、今ではメンデルは遺伝学の祖と言われています。
この二つの大発見(イノベーション)には大きな共通点があります。両者とも自分の専門分野以外から発見の契機や方法論を学んでいることであります。また、問題点を的確に掴み、それを解決するのに多大な努力をしていることです。前者は分野を超えた幅広い教養?知識を持つことであり、後者はその結果生じる問題の解決に向け果敢に「挑戦」することであります。
今、ここにおられる多くの皆さんは、大学の学部の軛から解き放たれ、自由な発想を掻き立てることのできる社会や他の分野へ出て行かれます。大学で培った知識をもとに大胆な発想を呼び起こす叡智を分野を超えて最大限に発揮してください。そのためには、自由な発想?創造とそれを具現化する情熱が必要です。正に、それが、我々が掲げている「創造する森 挑戦する炎」の始まりであります。

人工知能やロボットの発達で、今ある仕事のほとんどが消滅するか転換させられるだろうと言われています。ある報告によると、実に700もの職種が、将来90%の確率でコンピューターに取って代わられると算定されています。とすれば、コンピューターで出来ない方向性を、これらの分野でも打ち出す事が出来れば、その仕事は生き残れる可能性があるはずです。コンピューターはプログラミングさえすれば非常に多くのPlanを記憶し、人間より確実にそのプランの実行をします。しかし、コンピューターはプログラムの補正、特に自動補正はできません。フリーズするでしょう。記憶とその実行まではコンピューターが勝ります。あと十年で「消える職業」「なくなる仕事」とは、そのほとんどが記憶とその単純な実行で終わっているのです。医者や教育者、研究者、芸術家など創造的な職業が十年後も無くならないと言われる所以はそこにあります。
また、多くの会社や企業が大学の卒業生に求めている資質があります。コミュニケーション能力、リーダーシップ(積極性)それに協調性です。これらこそ現在のコンピューターでは処理出来ないものでもあります。つまり人と人とが相見え意識や思想、考え方を交流する、これが今後の我々の生活には最も必要とされ、最も重要とされるものでしょう。

最後に、熊本大学がさらに発展するための原動力は、熊本大学に学び、熊本大学を愛される方々の世代を超えた絆の中にあると思います。母校の伝統の担い手として、我が大学のキャッチフレーズ「創造する森 挑戦する炎」を胸に、積極的に母校のために力を寄せていただきたい。熊本大学で学んだことに誇りと自信を持って、これからの人生を力強く歩んでください。

今後の皆様のご健闘を祈りつつ、卒業?修了に際しての心からの祝辞といたします。

平成29年3月25日
熊本大学長 原田信志

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