年頭所感

熊本大学長  谷口 功

皆様には年末年始をご家族やご友人等と共に和やかに、また楽しくお過ごしいただけたでしょうか。我が国は大震災から復興に向けて力強く前進するという大きな課題がありますが、今年は辰年に因んで、文字通り 次のステージへと「飛躍」する年 にしたいものです。年頭に当たり、本学のさらなる飛躍に向けて所感を述べさせていただきます。

はじめに

昨年は、東日本大震災という大災害を経験し、多くの尊い命を失い、今なお多くの被災者の皆様がご苦労をされています。今年は、この状況から力強く立ち直っていく年でもありますので、そのために本学も全力を挙げて息長く支援したいと思います。大震災の教訓から学ぶべきことを真摯に学び、我が国の復興を目指して新しい社会を創り出すためにも、大学への期待は今後益々大きくなると考えられます。

明るいニュースとして、昨年夏には「なでしこジャパン」の女子サッカーワールドカップ優勝という快挙があり「あきらめない日本人」として日本人の底力が世界に認知された出来事でもありました。また、大震災に立ち向かう日本人が世界で賞賛され、我が国の国民は世界から信頼されるようになったと思います。

一方で、グローバル化した社会は、世界の出来事が瞬時のうちに我が国にも波及することを目の当たりにしたところでもあります。国際社会の経済や財政状況は大変厳しく、ヨーロッパの金融危機はたちどころに世界を駆け巡り、我が国の経済力を遥かに超えた円高が産業界に大きなダメージを与えています。世界は多様化が益々進んでいます。我が国周辺の情勢も予断を許さず、また、格差の拡大などを背景に不安定化が進む激動の世界は、新しい時代へと大きな潮流が動き出しています。

特に、大震災を経験した我が国は、多くの解決すべき課題を抱えながら、復興に向けた確かな歩みが求められます。社会は不安や萎縮した状況から脱却するための革新的でかつ現実的なシナリオを求めています。そのような社会の中で、大学は何をしなければならないのかを見極めなければなりません。本学の輝く将来に向けて、皆様と議論を積み重ねながら進むべき方向を見誤らないように注意しながら、守るべきところは守り、また大きく変化させていくところは変化させて、粘り強く新しい時代に向けて前進していく年になると考えています。

我が国の高等教育を取り巻く状況

平成23年度に続いて来年度平成24年度に向けての予算編成過程で、高等教育について、個別の政策課題ではなく、大学の在り方そのものが問われました。国立大学に関連することとして、1)我が国の大学には充分な国際的な競争力はあるのか、2)人材育成は今日の社会の要請にマッチしているのか、3)人材育成や社会の発展を担う大学としての改革は時代の変化に沿うスピードで進んでいるのか など、大学の在り方そのものについて厳しく問われています。高等教育の重要性と期待が増すに連れて、その責任を果たすことへの要請も益々厳しくなっています。

既に、中央教育審議会や国立大学協会等でも議論されているように、今後、 大学の機能強化や役割分担を踏まえながら、各大学の特色や強みを活かした社会貢献 が強く求められることになると思います。

その中で、昨年末に閣議決定された政府の平成24年度予算原案では、我が国全体の国立大学法人運営費交付金は、1兆1,423億円で平成23年度比105億円減の前年度比マイナス0.9%で設定されていますが、関係者の努力や「教育は未来への投資」という観点が、ある種、認められた結果でもあり、関係者に敬意を表するところです。

一方で、新規に「国立大学改革強化推進事業」経費が138億円計上されています。いわゆる競争的資金ですが、その経費の名前の通り、まさに大学改革をスピード感を持って進めるための経費と言えるものです。新しい時代の創造に向けて、われわれ高等教育機関が、社会の負託に応えて、自らその使命を達成するために最大限の努力をする責任を負っていることを示すものでもあります。

本学の経費としては、実際に教育研究に直接関わる一般経費については、昨年に引き続いて、23年度ベースでマイナス1.3%となっています。大きなプロジェクト関連経費の詳細については、さらに大幅な削減がかかっています。また、今後の国家公務員給与減額法案等の取り扱いによっては、国立大学法人の運営費交付金予算への影響も出て参りますので、事態は流動的です。

本学の将来への基本的な考え方

大学は、自らの将来像を描きながら、責任を持ってその役割と責任を主体的に果たす存在でなければなりません。社会から信頼される存在として、自らを律していかなければなりません。新しい時代の創造に向けて、社会の発展のために、われわれ高等教育機関は最大限の努力をする責任を負っています。

本学は、自ら策定し公表した第二期の6カ年の中期目標?計画期間における、目標?計画に基づくアクションプラン2010の実現にスピード感を持って取り組んでいきたいと思います。すなわち、第二期中期目標計画期間の第三年度の今年、目標計画の早期の達成とさらにその次を見据えた目標計画の一層の推進を睨んだ飛躍の年にしたいと思います。

これまでの取り組み

これまでの教職員の皆樣方のご努力により、法人化第一期中期目標計画期間の評価については良好な評価が確定し、中期目標計画期間の第二期に向けて弾みがついたところです。併せて、グローバルCOE等の中間評価もほぼ良好な評価をいただき、次の躍進に向けた取り組みを展開しています。その他のいくつかのプロジェクトにおいても、各学術分野でユニークな世界的研究も数多く進められており、大きな成果が示されています。しかし、一部、厳しい評価をいただいているプロジェクトもあります。これらについては、十分な内容の吟味とプロジェクトの目的達成のために一層の改善が必要です。

これまでに取り組んできた代表的な課題には、以下のようなものが挙げられます。

教育 においては、「学生の立場に立った教育」について、その在り方を含めて議論し、改革に取り組んでいます。平成23年度より、既に教養改革の一部が始まっています。いわゆる一般教育、リベラルアーツに関する共通教育の部分はもとより、各部局の目標とする人材像に沿って、丁寧かつ高度な教育プログラムの構築に向けた一層努力することを改めて確認したいと思います。

高度な教育の提供は、国立大学の存在意義でもあり、国立大学たる所以でもあります。これからの学生諸君には、変化の激しい時代にあって、国際社会で活躍できる人材として成長していくことが必要です。大学はこのための教育内容を準備し継続的な改善を進めることが必要で、それを実行して参ります。また、本学の歴史的文化的な資産でもある第五高等学校時代の煉瓦づくりの建物である、化学実験場の階段教室を活用して、本学の学生としてのアイデンテイテイーや誇りを醸成することを目指した新入生全員に対する学長特別講義も、24回に渡って実施いたしました。学生諸君のすばらしい反応に、若者の力と我が国の将来に確かな手応えを感じたところです。若者の力を引き出し、将来の社会の担い手として育て上げることは大学としての大きな役割と考えています。

研究 については、周知の通り、3つのグローバルCOE研究をはじめとする大型の研究プロジェクトに加えて独自の拠点研究等も進んでいます。熊大マグネシウム合金材料も新しいステージの研究が始まりました。全学の教育研究施設として「先進マグネシウム国際研究センター」も開設したところです。今後とも各学術分野で数多くのユニークで世界的な研究を進めることも本学の責務です。国立大学である以上、また、「我が国を代表する研究拠点大学」を掲げる本学にとって、研究成果は、その生命線でもあることは言うまでもありません。自らのすばらしい研究を基盤にしながら、高度な教育を進めていただく義務が全ての教員にあることは、今更言うまでもありません。我が国の発展の基盤を担っている教員の皆様には独自の特徴ある研究の推進に一層の努力を期待したいと思います。

本学の国際化 に向けて、国際的な認知度向上に取り組み、昨年12月には430名を超える留学生を擁するに至りました。交流協定大学も120機関を超えています。また、昨年度のベトナムでの第8回フォーラムに続いて、この1月10日には、上海で第9回熊本大学フォーラムも開催します。翌11日には、県や市との合同の上海オフィス開所式も執り行われます。中国には大連にも連携大学内にオフィスを開設いたしました。大学の国際化は、改めて言うまでもなく、学生諸君が卒業後に活躍する近未来が今より一層グローバル化した社会であり、本学はこの近未来の社会の中で世界を舞台に活躍できる人材の育成を使命と考えていますので、避けて通ることができない課題です。そのためには、キャンパスが国際社会の縮図であり、また、学生諸君には機会ある毎に、背景となる文化や価値観の異なる人々と対等に議論ができる人材として育って欲しいと思っています。国際化は、とりもなおさず、我が国の文化や考え方を理解し、その良さを再認識することでもあると思っています。

地域連携 に関しては、本学は、地域の教育レベルの向上と学生諸君の主体的で活発な活動を支援するために形成された高等教育機関の連携体である「高等教育コンソーシアム熊本」の会長校としての役割も果たしているところです。地域の発展に向けての県や市と連携した「くまもと都市戦略会議」も定期的に開催させていただき地域の発展にも寄与してきたところです。

また、 運営面 では、導入したいわゆる教員の人事ポイント制の効果的な運用による活力ある人事制度の構築についても検討しているところです。今後、さらに厳しいと予想される人件費削減の新たな要請や条件を踏まえた上で、引き続きその有効な活用法について精査していきたいと思います。また、男女共同参画や障害をお持ちの方々が存分に活躍できる体制?環境の整備等を進めてまいります。

新年度(平成24年度)の取り組み

本学は、周知の通り、 「我が国を代表する研究拠点大学」 として、学生が国際社会の中で元気に輝くための人材育成教育の実現、世界を先導する特色ある研究の推進、さらに国際化の推進等によって、世界的に卓越した存在感を示す大学として大きく飛躍することを目指しています。「社会の憧れの大学」として益々磨きをかけるべく、新たな課題に挑戦し、それぞれの学術分野において、我が国を代表する国際的な業績を積み重ねたいと考えています。今後、国立大学の機能強化と役割分担の重要性が益々重要になっていく中で、本学の機能強化の観点から、必要な組織改革についても精力的な取り組みが必要になると考えています。

新年度からは以下の取り組みが予定されています。組織面では、平成24年度から、薬学教育部関係の博士課程の改組に伴う「薬学教育部医療薬学専攻(博士課程)及び創薬?生命薬科学専攻(博士後期課程)が新設されます。残念ながら、申請した自然科学系のリーディング大学院構想は、ヒアリングには残りましたが採択には至りませんでした。引き続き今後の申請に向けた取り組みを考えたいと思います。

また、当初の要求額から大幅な減額にはなっていますが、教育研究に関する特別経費として次の課題が採択されています。継続課題として、「ノックアウトマウスを用いた疾患関連遺伝子の解析」、「生物多様性のある八代海沿岸海域環境の俯瞰型再生研究プロジェクト」、「革新ものづくり展開力の協働教育事業」など6件が認められています。加えて、新規課題として「薬学教育部博士課程改組」とそれに関連した設備である「超高感度MRI検出システム」の導入、「『グローバルなアカデミック?ハブ』を目指す国際拠点推進事業」の後継発展型事業としての「INSPIRE: 先導的な科学技術研究の国際連携プラットフォーム機能強化によるグローバルな人材育成?多方向型交流共創事業」、さらに、教員養成機関に関する全国的な改革要請としての「教員養成機能の充実」等が認められています。病院関係の特別医療機械の設備では「核医学診断システム」や「重症患者救命救急診療システム」の導入が予定されています。

施設整備については、継続事業に加えて、新たに「附属特別支援学校の校舎改修」、生命系の「国際先端医学研究拠点施設」の整備、さらには、学生支援のための施設充実としての「図書館本館の改修」が認められました。いずれも施設関連予算の逼迫の中で認められた事業です。責任を持ってこれらの事業を推進するために、関係各位のご尽力とご協力をお願いいたします。これらの基盤的な整備を有効に活用いただき、教育?研究の高度化や地域医療?先端医療の推進に尽力いただきたいと思います。

また、平成22年度から実施されている全ての事業所でのCO2の年1%削減義務に対応する整備や電力事情を勘案した節電及び省エネルギー化についても引き続いて推進いたしますので、皆様のご協力と様々なご提案をお願いいたします。

総力を結集して「憧れの熊本大学」の実現へ

我が国の経済?財政の状況は今後益々厳しくなると考えられます。政府の「中期財政フレーム」の制限の下で、社会保障費が年々1兆円規模で膨らむ中での予算編成を考えれば、来年度以降も大学を取り巻く財政環境は引き続き極めて厳しい状況です。その中で、今後とも社会からの支援が得られるような大学改革や教職員一人一人の意識改革なしには国立大学法人の運営費交付金への特別な配慮は極めて難しいと考えられます。本学は、これからも全力を挙げて社会の期待に応えたいと思います。

平成24年も、引き続いて熊本が注目される年になると思います。九州新幹線の全線開通の効果が少しずつ現れる中、4月には熊本市が政令指定都市としてのスタートする年でもあります。豊かな自然環境と歴史?文化に育まれた熊本が、学生諸君を中心とする若者が生き生きと活躍する学園都市として、また、高度な医療体制に支えられた安全安心な都市として、かつ知的な研究開発型の知識基盤社会の中核的な都市として益々発展し、我が国を代表する国際都市として大きく飛躍するために、大学としてもできる限りの貢献をしたいと思います。

本学が地域のリーダーとして、また、国際的にも存在感のある大学として今後も大きく成長するために、全ての構成員を太い「絆」でつなぎ、これまで培ってきた様々な叡智を結集させることで 「憧れの熊本大学」 の構築に向けて、今年も教育、研究、社会貢献に尽力して参ります。それ以外に我が国の将来を支える人材を養成することは不可能だからです。重ねて皆様の一層のご協力をお願いいたします。

結びに、新しい年が皆様にとって、すばらしい年でありますよう、皆様の御健康と御活躍を祈念いたしまして、年頭の挨拶といたします。




平成24年1月4日
熊本大学長 谷口 功

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経営企画本部 秘書室
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